序章・そんな流れでこうなりました。-2
「三日間、私をあなたの奥さんにしていただけませんか?」
『―――……はい?』
人間、あまりに驚くと声が通常運転では出てこないらしい。すぐに声が出ない上、どうにか喉から出た聞き返しは掠れた息もれ声だった。
そんな俺に、驚かれるも当然です、と優しく口角を上げる優羽は、俺の相づちを確認しながらゆっくりと説明を始めた。
現在、日本は婚姻率の低下が著しい。
文明の発展や高学歴化による晩婚化、女性の社会進出により男女ともに結婚を不必要としている傾向が理由として考えられる。
男性の場合は特に、雇用・収入などの経済的不安が婚姻をプレッシャーに感じてしまうことも要因だろう。
だがこの状況がこれ以上深刻化すると、何年も前から問題視されている少子化や高齢社会がさらに加速し、この国は破綻の危機に陥る。
確かに、ニュースでも定期的に出る話題だ。俺は何度もうんうんと頷いた。
「そこで、ある研究チームは実験を試みることにしました。」
男性は結婚に対してデメリットを感じやすいが、メリットを口で説明してもなかなかに伝わりにくい。
ならば、短期間だけ夫婦生活を疑似体験して意識改革をもたらすとどのような効果が得られるか?
『…へーぇ。』
お偉いさんの考えることは訳がわからないな。他人事で嘆声を上げて、はた、と点頭を止めた。
…え?それってじゃあ…
「美坂さんには今回の実験の被験者、つまり私の旦那様として三日間過ごしていただきたいんです。」
『だ、んなって…』
……言っていることはわからなくも…―――いやいやいや、やっぱりわからない。
目指すべきゴールを間違えてるだろ!
開いた口が塞がらない俺に、にっこりと満開の笑顔で優羽は説明を続けた。