...意外と?-4
(時計ってこんなうるさかったっけ…)
そう思っていた矢先のこと。約束の丁度5分後、インターフォンが鳴った。
…郁…!
今度は駆け出すのを抑えようともせず、勢いよくドアを開けた。
その物音と俺の切羽詰った表情におどろく郁。
目を大きくさせて俺の瞳を見つめている。
「ど…どうしたんですか?」
『…来てくれないかと思って…』
数十分の緊張と不安が、郁の顔を見ただけで消し飛んだ。
大きく胸を撫でおろし郁を抱きしめる。
「…あぁ、さっきの女の人が言っていたことですか?」
―――…やっぱり聞こえてたよな…
心臓がどくんと跳ね上がるのを感じた。
抱きしめる腕に力がこもり、何をどう伝えるのが適切なのか迷うが、脳内には言い訳しか浮かんでこない。
郁は、俺の胸に顔を埋めて言った。
「気にしないでください。―――知ってましたから。」
『……へ…?』
知ってた?何を?
訳がわからない俺に、なんとなくですけど、と郁は続けた。
「はじめてここに来た時に、すぐわかりました。遊びだって。」
かばんを持ったままの郁の腕が、俺の背中にまわされる。
「でも、私はもっと前から夏目さんのことが好きでした。だから、私は私のエゴでここに来てただけです。」
顔を上げ、もう一度気にしないでください、と言う郁。
それはいつもと変わらぬ笑顔だった。