...意外と?-3
(―――あ…!)
元彼女のうしろを、郁が通った。
視線がぶつかったけどそれは一瞬で、郁は無表情で目を背け俺の視界から消えた。
俺のひとつ奥の部屋で、郁の発する開錠音とドアの開閉音が俺の頭に鈍く響いた。
(……最悪…)
俺の心情なんてまったく知らない元彼女は、聞いてんの、とまだ騒ぎ立てている。
その声に、汚い化粧に、匂いに、全てにうんざりした。
『…もう、いい?』
苛つきを隠すことなく髪をかき上げた。
怒りで顔を真っ赤にしている女の手が上がる。
『―――また殴られるのも勘弁。』
振り上げられた手を腕で止めると、女はさいごにもう一言悪態をつき踵を返して帰っていった。
(……あー…最悪だ…)
ドアを閉め大きな溜め息をつくと、倒れこむようにソファに腰を埋め足を投げ出した。
さっきの女の声は全て郁の耳にも届いていたはずだ。
今日は…いや、最悪もう二度と、郁はうちに来てくれないかもしれない。
偶然会ってもさっきみたく目をそらされるかもしれない。
(もう…俺には笑いかけてくれない、とか…?)
悪いイメージがぐるぐると頭の中をまわり離れない。
不安でメールなんてできない。