焔の決断-15
(……っ……)
エンは……動けなかった……珍しく、どうすれば良いのか……自分がどうしたいのか……分からなかったのだ。
転移の魔法は滞りなく行われ、ラインハルトはファンに帰って行った。
帰り際に「次はシラフで誘ってくれ」と笑いながら言われたが、目の奥は笑っていなかった。
「ねえ、キャラ?」
「何ですか?」
ラインハルトが消えた魔法陣を見ながら声をかけたエンに、キャラは首を傾げた。
「王様ってのは大変なんだよねぇ?」
いつも通り間延びした口調だったが、表情が真面目だったのでキャラも真面目に答える。
「大変って言うか……精神的にキツイ所はありますね」
のし掛かってくる責任と期待に押し潰されそうになる時がある、とキャラは言った。
「ラインの傍に信用……って言うか、甘えられる人は居るのかなぁ?」
「一応、ギルフォード兄様が……って、何かあったんですか?」
変な事ばかり聞かれてキャラは何だか不安になる。
「ん〜…ちょっとねえ……ラインが心配だなぁってさ……」
魔法陣から目を離したエンは、怪訝な顔をしているキャラの頭をポンと叩いた。
「……アースの事頼むねぇ〜」
「はあ?」
訳の分からない事を言われたキャラは間抜けな声を出し、エンはクスクス笑いながらその場を去る。
「母さん、僕ファンに行こうかと思うんだけどさぁ〜」
ブハッ
ガチャガチャッ
『言の葉亭』でお茶を飲んでいたアースが吹き出し、食器を洗っていたキャラがコップをお手玉して盛大な音をたてた。
エリーは度肝を抜かれた顔をしていたが、フッと笑って鍋に視線を戻し、中身をニードルで掻き回す。
「好きにしな」
「うん。ありがとう」
あっさりと許可したエリーをエンは、感謝と謝罪の気持ちを込めて軽く抱いた。
「ゲホッ……ちょっと待て……」
しかし、アースの方は簡単にいきそうに無い。
「この、約2日間でいったい何があった?」
「色々〜…聞きたい?」
ニヤニヤ笑うエンの表情にアースは物凄く嫌ぁな顔をした。
「……聞きたくねぇ……」
なんだか絶望的な気分になったアースは両手で頭を抱える。