堕天使のいる部屋-3
もっと生徒たちに対して、毅然として振る舞いなさい。
必要以上に生徒たちに交わらず、一定の距離を保ちなさい。
友達感覚はやめなさい。そういう指導を俺は時々受けた。
確かに、と思う反面、何か違和感も感じた。
何が違うのかは、俺の中で感じた漠たる感覚で、なかなか説明する事が出来ない。
生徒からはなめられていたが、それで彼らが何か悪さをする訳でもなかったのだ。
こういう具合にお洒落もしてくるが、それはただそういう年頃なのだろう。
「ミッチー、それよりさ、相談なんだけどさァ」
「なんだ? 宿題減らせとかは、無理だぞ。これでも少ない方なんだからな」
「それもそうだけど、そうじゃなくてさァ、実はちょっと……」
「ちょっと?」
「明日休みじゃない? その、ミッチーん家の部屋をさァ、貸してくんない?」
「はあああぁぁぁ?」
「明日ちょっと、ほら、友達とちょっとしたパーティやろうと思ってさァ……」
「バカ言え、そんなの自分ん家でも友達ん家でも、どうとでもなるだろうが」
「それがさァ、いろいろあって、そうもいかないんだよォ」
「部屋貸した後に、俺はどうすればいいんだよ?」
「それは……ちょっと適当に外をブラブラしててもらえば」
「おい、ふざけるなよ、俺は先生だぞ?」
「こんな事、頼めるのミッチーしかいないんだよ、ねぇ頼むよ……お礼、するからさ」
「お礼って、お前らがどういうお礼をするんだよ」
「そりゃ……何かさ、それにあたし学級委員結構ちゃんとやってんじゃん、ね?」
確かに、誰もやりたがらなかった学級委員の仕事を、それなりにやってくれているのは助かっていた。
でも、それとこれとは別だろ……俺の前で手をあわせて、申し訳なさそうに頼み込むサチ。
俺が憧れていたのは、こういうんじゃなかったんだが、生徒の頼みと言えば頼みなんだろうか。
それに貸しを作っておけば、俺の言うこともいくらか聞きやすくなるのかもしれない。
「しょうがないな……」
「やった! ミッチー超愛してる! あ、そうそう」
「なんだ」
「変な本とかあったらさ、片付けといてね」
「マセガキが、やかましい」
サチは明日俺の家に昼頃来る事、夕方には帰る事を言い残し、帰っていった。
だが、何かどうにも引っ掛かる。何故俺の部屋なのか? パーティって誰と?
普通の事なら、自宅でいいはずなのだ。普通の事ではないのか。
何か俺に関係するサプライズとか? だが、俺の誕生日などはまだだいぶ先だ。
そういう事をされる理由も、思いつかない。
一体、何なのか。やはり、嫌な予感がした。
俺は、とんでもない事を引き受けてしまったのではないか。