マチモリ-1
町守(まちもり)はメトロ・タワーの上にいた。
都市の全域を見渡すことができる、一番高い建造物である。
そこへ無数の階段を上って1人の少女がやって来た。
やがて少女は立ち止まり、タワーの鉄骨を伝って先端の方に歩いて行く。
タワーの一番外側、それ以上行くと足を踏み外せば約200m下の地上に落下する。
『君の名前は?』
少女は心の中に直接問いかける声を聞いた。老人の声だった。
少女は驚いたが心の声で答えた。
『私の名前はミア。あなたは誰ですか?』
『私は町守。君は今死のうとしているね。どうしてかな』
『町守……もしかして町を守る人のことですか?』
『まあ、そんな者だね。どうして死のうとしているんだい?』
『父のハザンと同じ病気で20才までに死ぬって言われたからです。
父は38才で死んだけれど、私はもっと早く死ぬことになるんです。』
『では病気が治りさえすればミアさんは死ななくてもすむんですね』
『それだけじゃありません。もう1人の病気も治らなくちゃ意味がないんです』
『それは誰?』
『ハヤテさん。今から50年前に60才で冷凍冬眠を始めた人。
私のひいお爺さんで、全身に癌がまわって後30年後に目が覚めることになっているんですけれど』
『どうしてその人の病気が治らないと駄目なの?』
『私の憧れの人だから、会ってみたいの』
『面白いね。君はひい爺さんが憧れの人だなんて』
『だって、映像記録が残っているし、とても素敵な人なんだもの』
『ところでミアさん。
君は今死のうとしたけれど、その2つの病気を治してあげると言ったらどうしますか?
死のうとまでしたんですから、どんなことでも受け入れますか?』
『町守さん、あなたはもしかして悪魔?願い事を叶える代わりに魂を奪う積りですか?』
『それにお答えする訳にはいかないのです。
私が二人の病気を治すことを約束する代わりにあなたから何かあるものを貰います。
その契約をすることが先です。』
『契約をしなかったとしたら』
『私にはミアさんに何もしてあげられません。それだけのことです』
『じゃあ、契約をします。
しなければ死ぬしかないから、残された道はそれだけですもの』
『では、これからミアさんに会いに行きますから、そこで待っていて下さい』
ミアはずっと待っていた。目と口が大きい子だった。
それだけに目や口の僅かな表情で複雑な感情を表現することができた。