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【エッセイ/詩 その他小説】

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「旅に出ようか?」

 聞き慣れた声が鼓膜を震わす。
 突然そんなことを言いだした君は、隣で何時ものように少し哀しげに微笑んでいる。
 旅。
 ただその一言にどことなく惹かれるのは、それを君が言ったからだろうか?

「あてもなく、さ。どこか遠くまで行きたくはない? 誰も知り合いのいない、見知らぬ場所まで」

 言いたいことはわからなくもない。
 君はいろいろなものを抱えて、抱えて、でも持ちきれなくて。
 だから君は、沢山のことに疲ている。
 その細い肩が震えている。
 でも、本当は何も持ってないからなんだよね。
 君はいつか言っていた。何も持てずに生きていくのは、とても辛くて、寂しくて。
 だから君は、ここにはいられない。
 みんな、何かを持っているから。
 君は、何かを探しているから。
 でも、僕は知っている。君も本当は知っている。
 場所が変わって、人が変わって、でも自分が変わらないと世界は変わらないって。

「きっとみんなほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう」

 ジョバンニの真似をしてそう言う君は、少し悲しそうで。
 僕はどんな顔をすればいい?
 怒ればいい?
 悲しめばいい?
 それとも、笑えばいいのかな?

「君は優しいね。ありがとう」

 そう言ってまた、君は微笑んだ。


 ――そして、君は旅に出た。
 僕は、変わらずここにいる。

 君の世界は変わりましたか?
 僕の世界は変わりました。
 僕は、君が変えた、君のいないこの世界で、いつまでも君を待っています。

 そしたら今度は僕から誘おう。

『一緒に旅に出ないかい?』





宮沢賢治・著「銀河鉄道の夜」より一部引用


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