恋していた-1
素敵で、綺麗で。
可愛くて、濃密だけど純粋な、"恋"。
そうだった、そのはずだったのに…。
「はぁ」
通学定期のカードを取り出し、重い足取りで改札を通る。
昨日まで好きかどうかも分からなかったのに、今はちくちく痛くてたまらない。
私は、駅のホームから見える鳩の数をぼうっと数えた。
いち、に…あ、飛んじゃった。
そんなことをしている間に電車が来て、もたもたしていると後ろから知らない手に押される。
いつもと同じことしてるのに、いつもとは違う。
恋って…こんなものなんだ。
今なら、わかる。
これ、絶対ほんとに好きになっちゃったんだ。
だって、なんだかすごく鮮やかで激しいもん。
…いつからこんなに好きだったんだろう。
昨日から?
もっとずっと前から?
前は、ただ見つめているのが楽しかった。
構ってもらえるのがくすぐったかった。
それ以上の欲なんてなかったのに…。
電車のドアにとん、とよっ掛かっる。
背中の向こうで空間が動くのを感じた。
私どこかで間違っちゃったのかなぁ。
ほんとは…自分でブレーキかけなきゃいけなかったのかもしれない。
話したいときに話しかけて。
見てほしいときに気を引こうと変なことして。
触れたいときに触れて。
全然我慢しないでそんなことばっかりしてたけど、今では考えられないな。
痛くて、苦し過ぎて、あの人に近づけない。
意識したら、ダメになる。
たぶん、どっかで分かってたのに。
先生……
***
窓の外を見るともう随分暗くなっていた。
季節は急ぎ足で冬に向かい、どんどん寒くなる。
「畑本さん、ばいばい。」
軽やかに手を振る笠井さんに手を振り返す。
今日も斉藤君と帰るのかな?
…いいなぁ。
今日は数学の授業もなかったし、なんだか少し落ち込んでしまったから、私はちょこっと元気がもらいたくて授業用ファイルを開いた。
……………あれ?
目的のものが予想していた辺りになくて、鞄の中をごそごそと掻き回す。
あれ、なんで…絶対ここに入ってたのに。