恋していた-8
「あっ」
床に落ちたテストを急いで手に取り、柔らかく抱きしめた。
「良かった…。」
「どっちのこと?」
「え?」
「そんな紙なんかより、畑本ちゃん自身の方が大事じゃん!
ほんとにあれでいいと思ったわけ?
考えなよ、ちゃんと…」
真剣に私を見る伊藤さんの目がすごく真っすぐで、心があったかくなった。
「うん…あの、ごめんなさい。」
「あ、ううん。
私もなんか…ついムキになっちゃって、ごめんね。」
たどたどしく言葉を切って、伊藤さんが差し延べてくれた手を取り、立ち上がる。
改めてしっかり手を握って、目を合わせた。
「ありがとう。来てくれなかったら、私…」
「ごめんね。」
「へ?」
「あいつがなんか、こそこそ畑本ちゃんの周りにいるの知ってたんだけど、まっさかこんなことになるなんて思わなくて。」
「………。」
「…昔は、あんなんじゃなかったのになぁ…。」
その言葉に顔を上げると、伊藤さんの瞳がどこか遠くで揺れていた。
「竹田君のこと、前から知ってるの?」
「あー…うん。」
気まずそうに私の視線を避ける。
一度下を向き、切り替える様に勢い良く私を見た。
「心っ底嫌いなんだけど、従兄弟なんだ。」
「え、そうなんだ。」
「だから、お姉ちゃんのことも知ってるの。」
伊藤さんは意味ありげに私を見た。
「お姉さん?」
「伊藤…菜美子。」
…どきっ、とした。
『菜美子…!』
って、先生の声を思い出したから。
「その反応はー、なんか知ってるみたいだね。」
「あの、前に先生が、電話で名前呼んでたから。」
「電話?盗み聞き?」
「あ…うん、そう。」
「ふうん。」
伊藤さんは近くにあった椅子のほこりを払い、眉根を寄せた。