恋していた-2
「探しもの?」
「え。」
慌てはじめたとき妙に近くで声がした。
振り返るとものすごく近くに竹田君がいた。
「ち、近いよね、いつも…」
「そう?俺的には、もっとくっついちゃってもいいかなって感じだけど。」
「はぁ、そっかな。」
「で?」
「え?」
聞き返すと、少し面倒臭そうな顔になる。
「なんか探してんだろ。」
「あ、うん。」
「ちょっと来いよ。」
「え、なん…」
聞き返す前に腕を掴まれて、強引に連れていかれた。
廊下に出るとぱっと手を離し、にかっと笑った。
「探しものはこれですかー?」
後ろ手に持っていたものを取り出す。
彼の手にしているテスト用紙を見て、私は自分の顔が赤く染まっていくのを感じた。
"テスト用紙に落書きはしないこと"
先生のいつも使ってる赤ペンが、私に、私だけに向けたメッセージを伝えてる。
私的な言葉じゃなくてもいいの、お仕事でもいいの。
先生の少し神経質そうな文字を見るだけで、私は結構元気になれる。
驚きでぱちぱちと瞬きをすると、竹田君はニヤリと笑う。
「やっぱりこれ探してたんだ。」
「か、返して。」
彼は、答えずに指でつまんでひらひらと振ってみせる。
その意地悪な笑顔で、昨日の放課後に見た表情を思い出した。
彼が手渡した私の鞄。
こちらを観察する目。
「…昨日、私の鞄の中、見たの?」
「返してほしかったら、ついて来て。」
竹田君は私の言葉を無視して、歩いて行ってしまう。
慌ててついていく私の方を振り返りもしない。
…私が従わない可能性なんて、考えていないみたいだ。