恋していた-13
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私は、先生を避けた。
放課後準備室を訪ねることはなくなったし、授業時間は絶対に目を合わせないようにした。
そうしたら気づいた。
…避けたら会わないんだ。
当たり前か。
***
放課後、教室には私一人しかいなかった。
課題を済ませて帰り支度していたら、扉が開く音がした。
反射的に顔を上げると、入ってきた高橋先生と目が合った。
「畑本か。」
先生は教壇の方に歩いて行って、中に入っていた細身のペンケースを取り出した。
「良かった、ここにあった。」
ペンケースを軽く持ち上げて、少し笑った。
私は。
なんだか泣きそうだった。
会わなければ、忘れられると思ったのに。
さっきまで、心は静かだったのに。
先生と目が合うだけで、胸の奥から愛しさが込み上げてくる。
「久しぶり、かな。」
先生が、少し私に近づく。
距離が近づくにつれて、私の胸が痛くなる。
「なんか、変だな。」
先生が、もう一度笑った。
その、何事もなかったかのような笑顔が、心に刺さる。
…きっと、当たり障りのないことを言えば良かったんだ。
だけど、私は先生にキスをした。
何もないこと、なかったから。
「なんで、何も言わないんですか?」
「え?」
「私、先生にキスしたのに。」
言った瞬間、私の目から涙がこぼれた。
その涙にびっくりして、言った言葉に後悔する。
「な、なんでもないです。」
もうだめだ。
なんで、うまいこといかないんだろ。
私は鞄を持って、教室を出ようと立ち上がった。