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恋なんて知らない
【初恋 恋愛小説】

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恋していた-10

「お姉ちゃんね、本当嘘が下手くそなくせに目立ちたがりで…自分が自殺未遂した、って彼だけじゃなくて、家族みんなに言っちゃったんだよね。
その思いつきを、なんだか気に入ってたみたい。」


彼女は、どんな人なんだろう?


「ちょっとした悪戯心で言ったのかもしんないけど、当然めちゃめちゃ心配するし、理由は?ってなるじゃん?
それでまた馬鹿みたいにさ、高橋さんの名前出しちゃったんだよね。」

彼女は、何を思ってたんだろう?

伊藤さんは、どんどん早口になる。

「大人の事情はよく分かんないけどさ、高橋さんもう少しで教師辞めるとこだったみたい。
お姉ちゃんも自分の言ったことがどんなに影響力のあることかやっと分かって、嘘をついたことを謝って…ね。」

彼女はの苦しさは、私にはわからない。

「家に来た高橋さんに今にも殴り掛かりそうだったのに、お父さん、すーっと波が引いていくみたいに腑抜けちゃった。」

先生の気持ちも、私には分からない。

「結局、お父さんも高橋さんに謝ったんだけどねー、あの人別に何もしてないのにお父さんとお姉ちゃんに頭下げて、自分から前の学校辞めたの。」

ずき、とまた胸が痛くなる。
菜美子さんの気持ちよりも、先生の気持ちよりも、自分の気持ち。

事情も知らないのに、先生の味方をしたがってる。
そこまで大きく先生の人生に関わった、菜美子さんに嫉妬してる…嫌な私。


伊藤さんはそこで黙り込み、私も何かを言おうと口を開いたけど、何も言えずに唇を結んだ。

しばらく沈黙が続いた。


「だーっ!もう!」

「わっ…」

伊藤さんの突然の大声で、私は椅子から転げ落ちそうになる。

「あの人、全っ然私のこと気づいてないんだもん、面白いくらい!
そりゃ違う学校だし、名前は揃いじゃないし、年も割と離れてて似てなくて、ナチュラルなお姉ちゃんと違って私はギラギラ化粧してるけどさ、」

はぁ、と大きなため息をついて、脱力したように座り直した。

「探りに来てあそこまで警戒されないってのも、なんだかねー。」

探り、に…?

「伊藤さん、高橋先生のことが好きなわけじゃないの?」

私が尋ねると、伊藤さんの大きな瞳が私をじっと見つめた。

「畑本ちゃんて…ほんと鋭いんだか鈍いんだか分かんないね。」

「ご、ごめんね。」

たぶん、鈍いだけだと思う。

伊藤さんは、うーん、と考え込むように首の後ろを撫でた。


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