returns to one-1
放課後の廊下で、俺の目がそれを捉えた。
心臓が一度だけ重く跳ね、同時に視界も歪む。
からだが強張り、視線をそこから外せない。
「瑛介(えいすけ)、知らなかったの?」
「沙也(さや)達ならもう1週間くらい経つんじゃない?」
「颯太(そうた)から告ったらしいね。」
俺の視線の先に気づいた周りの奴らから名を呼ばれ話しかけられたが、水中に潜っている時のように、ぼんやりと響くように聞こえる。
『―――颯太の奴、趣味悪すぎだろ。』
片方の口角だけ上げて意地悪く笑ったが、やっと口から出た言葉はそれだけだった。
(は…?沙也が?…1週間も前から?)
昇降口へ向かいながら、いつも以上にまなじりを垂らして笑う颯太。その隣で静かに微笑む沙也。
二人の絆を表すように堅く握られた手を、俺は脳裏から離すことが出来ず…
それはそのまま、痛みを帯びしこりとなって俺の体内に留まった。
沙也は俺の双子の姉だ。この世では稀少な、男女の一卵性双生児。
仲が悪い訳ではないが、決して良好な関係ではない。
成長するにつれ意思疎通に言葉が必要となり、互いが互いに興味を示さなければ解り合えないのが苦痛になった。
その結果が、同じ家に住んでいても一日に数回しか言葉を交わさない二人の現状だ。
…だから、全く気づかなかった。
(沙也が…颯太とつき合ってる…?)
颯太は俺のクラスメイトだ。
そこまで親しい仲ではないが、良い奴だってことは知っている。
(でも…だからって…)
―――…ふざけんな。
体内に潜伏するしこりが、だんだんと墨に塗れていくのを感じた。