returns to one-8
「あたしは…!もうずっと、瑛介を弟だなんて思いたくなかった…!」
『…な…何言って…』
だって、じゃあ颯太は―――…
収拾のつかない感情は全て消えたが頭の中が真っ白になり、何を言えばいいかわからない。
たじろぐ俺に、沙也がぽつりぽつりと言葉を続けた。
「高校入ってあんたに彼女が出来て…ずっと隣にはいられないんだ、って痛い程わかった。颯太には最低なことしてるけど…」
“誰かを利用してでも自分の想いを断ち切らなきゃって。”
静かにそう告げる沙也の瞳から、また大粒の涙が零れた。
沙也は人の気持ちを踏みにじるような女じゃない。颯太と一緒にいることを選択するのに、どれだけの覚悟をしたのだろう。
(お前がそんな風に思いつめてまで日常をまもろうとしてたのに、俺は…)
幼稚な独占欲と醜い嫉妬心に駆られて、歪んだ感情で強引にからだを奪ってしまったんだ…
突き刺さる事実に色を失い、冷えた汗がからだを流れる。
ごめん…沙也、ごめん…
わかっていたのに。
俺達は姉弟なんだ。
どんなに想っていたって、俺は嫉妬していい立場じゃない。繋がっていい関係じゃない。
「…ばか。何て情けない顔してんの…」
沙也の薄くて華奢な左手が、俺の冷たくなった頬に触れた。そこにだけ温もりが伝わる。
『…沙也…』
柔らかくて温かい弾力が俺の口唇に一瞬だけ触れた。
沙也から受ける初めてのキスだったのに…
口唇が離れて久しぶりに俺に向けられた笑顔は、ひどく哀しげなものだった。