甘えるのが下手っぴ。-8
――――――――――――――――――――
「昨日はご迷惑をおかけして、本当にすみませんでした!」
翌日、回復した郁がふかぶかと頭を下げてきた。
俺も風邪のうつった感じはしない。
『普段の食生活が悪いから風邪なんかひいちゃうんじゃねーの?』
こんなことくらいで気になんかしてほしくなくて、わざとおどけて舌を出した。
「あ、それには訳があって・・・」
郁が話しながら玄関のある方向に指をさした。
その方向には、赤茶のかわいらしいトランクケース。
「実は、昨日から女の子数人で旅行へ行く予定だったんです。」
あー、なるほど。
それで冷蔵庫の中身を空にしていたのか。
部屋のインテリアにしては少しずれているトランクケースにも、これでつじつまが合った。
「それであさってまで有給をもらっていたんですけど・・・見事に無駄になっちゃいましたね。」
そう話す郁の声が、だんだんとうなだれた。
『じゃあ郁が元気になるまで、俺がたまに様子見に来るよ。』
ぴくんと顔を上げる郁に、ただ、とつけ加えた。
腰をかがめて郁に視線を合わせる。
『全快したら昨日の仕打ち、覚悟しといてネ?』
また“チワワ”な彼女の頬に、キスをした。