ひとときの逢瀬-4
2.
2人が愛し合っている最中。
「愛花ぁ? 愛花いるんでしょ? どこ?」
両手に大荷物を抱えたつかさがどかどかっ…と玄関に上がり込んだ。
つかさは志津から預かったお金で、愛花の大好きなスイーツを買い占めてきたのだ。おかげで時間を食ってしまった。
鎌倉駅前にある『サン=テクジュペリ』のシュークリーム。焼きたてのシューにかかっているシナモンパウダーの香りがたまらない逸品だ。
他にも『モンシェリCoCo』の焼きプリン。『志の原』名物、和三盆ロールケーキ。愛花なら卒倒するほど喜んでくれるはず。
「あっれぇ…おかしいな?」
あたりはもうすっかり暗くなっているのに、玄関もリビングもまだ電気はついていない。
人気を感じて2階への階段をそろそろと上ると、愛花の部屋から何か聞こえてくる。それははしたない嬌声だった。
「…ぁぁあひゃぁっ…おねぇひゃまぁ…もっろっ…ひゅってぇ…おまんちょすいあげてぇ…っ!!」
「とってもおいひぃ…愛花の…オマンコ…誰にも、誰にも渡さないっ…」
べちょっ! べちょっ! じゅるじゅるじゅるるるっ!
ソバでもすすり上げるような汚い音が響く。
つかさは瞬時に状況を理解した。顔面がカーッと紅潮していく。
(愛花と船橋先輩が…SEXしている…っっっ!!!)
半ば呆然としたまま後ずさりをして、つかさは階段を下りていった。
(愛花…! 良かったね…。良か…た…ね……)
とめどもなく流れる涙でつかさの視界はぐちゃぐちゃに歪んでいた。
わかっていた。いずれこうなることはわかっていた。覚悟はしていたことだが、愛する親友が誰かと交わす睦言など、できれば聞きたくなかった。
バタンッ!
玄関を飛び出したつかさは泣きじゃくりながら全力で駆け出した。
数十分後。
いつしか気を失っていた愛花は、美貴の腕の中で目を覚ました。
顔が近い。ドギマギしながら思わず視線をそらすと、不意に美貴の唇が重なった。
「お目覚めのキスよ、お姫様」
「嬉しい…っ。お姉さまぁ…」
唇の先で戯れ合い、唾液がくちゅっ、くちゅっと水音をたてる。
2人はお互いの首筋に両手を絡ませて恋人同士の甘いキスをしばし楽しんだ。
愛花が耳元でささやいた。
「ねぇ…どうしてなの?」
「ん? なぁに? 愛花…」
「私の処女膜…。どうしてもらってくれないの?」
「そのことだけど…『お世話係』になった日、玲様にHされたでしょ? 何か変わったことなかった?」
「そういえば…あの時、急に電話がかかってきて…主将はどこかに出かけちゃったんです」
「玲様は愛花のこと、あんなに欲しがっていたのに…」
美貴は、愛花の肩に手を置いてゆっくりと話しかけた。
「愛花…心から愛しているわ…。もうあなたと離れられない。でもね私、玲様を裏切ることもできない」
「どういうことですか?」
「玲様はね…私の親友であり、恩人であり、ご主人様なの。玲様があなたの処女膜を奪わなかったのなら、きっと何か理由があるはず。私が勝手にあなたの処女をもらうわけにはいかないわ」
「そんなぁ…私、お姉さまにもらってほしいの…」
「ダメなのよ、愛花。あなたも、私も、玲様のペットなの。本来ペット同士の恋愛は禁止なのよ」
「ええっ…?」
「こうなってしまった以上仕方ないけど、この恋は、私たちの秘密。学校ではただの先輩後輩よ。約束してちょうだい」
その後は、いくら甘えた声でおねだりをしても無駄だった。愛花もあきらめるしかなかった。
「あらっ? もうこんな時間だわ! 大変、ママが帰ってきちゃう…」
「ごめんなさい。ベッドのシーツ、すっかり汚してしまったわね。急いでお洗濯するわ」
「先輩、お腹すいたでしょう? 一緒にお夕飯食べて行って下さい!」
「じゃあ一緒に作りましょ? その前に、ちょっと家に連絡するわね」
「はいっ!」
急に現実に立ち返り、2人はようやく微笑んだ。先のことはわからない。しかしもう恋人同士なのだ。片思いじゃない。何があろうとこれだけは変えられない事実だ。
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その日の夜遅く、剣道部に潜む闇の深さに暗澹たる気分で帰ってきた志津は思わぬ歓迎を受けた。
「おかえりなさい!!」
揃って出迎えたエプロン姿の2人を見て、志津もすぐに状況を理解した。
「船橋さん…あなただったのね。愛花の想い人は」
「笠倉コーチ…。愛花さんを私に下さい! 必ず幸せにしますから!」
突然の告白にさすがの志津もびっくりした。
見れば、目の前の2人はしっかりと手を握り合っている。
「…遊びじゃないのね?」
「はい、本気ですっ!」
美貴はきっぱりと言い切った。
「ママ…お願い。許して欲しいの…」
「……いいわ。許してあげる」
「やったぁ!!」
2人は手を取り合って喜んだ。
(やれやれ。あなたたち2人のためにも、私はがんばらなくっちゃいけないみたいね…)
志津は心の中でこっそりつぶやいた。
「…でも2人ともまだ学生なんだから、一番大事なのは学業。そして部活よ。いくら楽しくてもSEXはほどほどにすること」
…と、志津はごんごん回り続けている洗濯機の方をちらりと見て一言釘を刺した。
愛花は思わず顔を赤らめ、『てへぺろ』ないたずらっぽい表情を見せた。
「それと…。今は無理でもいずれちゃんと神前で式を挙げて、永遠の愛を誓うこと。船橋さんも剣道部員なら、伝統の『儀式』は知ってるわね?」
「はい、聞いたことはあります」
「私も昔、神前でお姉さまと式を挙げたのよ」