あるゲームセンターの風景-5
「アベさんは、他のゲームはされないんですか?」
「俺は、昔からこればっかりだね」
「じゃあ、少しわたしに付き合ってくれませんか?」
「何を?」
「あれ、やりませんか?」
彼女の指した方向を見て、俺はうわっ、と思った。音楽に合わせて、画面に表示されるものと同じ床のボタンを踏んでいく、というゲームである。
ゲーセンには大抵置いてあるが、俺はこの種のゲームは大の苦手だった。
あまり音感がないのもあるが、人前で不細工に踊って、恥ずかしいだけだろう、などとと思ってしまう。
「ああ、じゃあ、俺は君の上着を預かっとくから」
「これ二人でも出来るんですよ、あとカオルって呼んでくださいね」
「……俺、こういうの、下手なんだよ」
「わたし、今までさんざん負けたんだから、たまには勝たせてください」
逃がしてもらえそうもなかった。
ゲームで負けが込むと、大なり小なり腹は立つのである。
彼女も俺をなんとかやりこめたかったのだろうか。
一度くらいなら仕方ないと俺は諦めることにした。
しかし、あのタイトなスカートでやるつもりなのか。俺も、スーツである。
カオルにそれを聞くと、大丈夫ですよ、と事も無げに答えた。