双星の魔女の困惑-7
「アース?」
何をしているのか、と呼びかけるキャラに、人差し指を口につけて黙るように合図したアースは3分程してバッと右を向いた。
「居た!!クソ女がっ!波動消してやがったなっ」
魔力の波動は人によって違う。
その波動を辿っていたのだが、魔導師のリンはその波動を消してまで姿をくらませていたのだ。
「行くぞ!!俺らを巻き込んだ事、後悔させてやるっ!!」
物凄い勢いで飛び出していく……のかと思いきや、ちゃんと戸締まりをしていくあたり律義な男なのだ。
その頃、リンは普段は足を運ばない街外れの飲み屋に来ていた。
グラスの中の氷を眺めながらため息をつく。
どうもおかしい……調子が狂う……何もかもグロウのせいだ。
長い人生の中であんなキスは知らない。
今までセックス前の通過儀礼だったのに、キスだけで胸が苦しくなるなどあり得ない。
「見〜つ〜け〜た〜ぞ〜」
カウンターに突っ伏していたリンの背後に、不動明王のような形相のアースが両腕を組んで現れた。
あまりの恐ろしい雰囲気に周りの客が怯え、キャラがペコペコと頭を下げてまわる。
「……アースぅ……」
しかし、振り向いたリンはふにゃっと今にも泣きそうな顔で、それを見たアースの怒りは一気に萎んだ。
アースとキャラはちらっと視線を交わし、リンの両隣に座る。
「どうしたんだ?」
アースがリンの肩を擦ってやると、リンはアースの肩に頭を乗せた。
「わかんないわよぉ……なんかもうぐちゃぐちゃ……」
リンはポツポツと何があったか話す……欲求不満が溜まってた事、グロウが相手をしてやると名乗り出てくれた事……で……キスしただけで逃げ出した事。
「逃げた??」
「リンさんが?!」
我が儘で自分勝手な女王様のリンが……逃げた……。
「何で?」
アースの質問にリンは暫しの沈黙の後白状する。
「……だって……何か怖いんだもの……」
今度会ったら捕まって逃げられないような……自分が自分でなくなってしまうような気がしてならない、と言うリンにキャラは微笑んだ。
「リンさん……か〜わいい……」
「へ?」
何故そうなる。
「あ〜……で?逃げててどんな感じ?」
アースは自分の飲み物を注文しながらリンに聞いた。
「……どんなって何よ?」
「楽になりました?余計ツラくないですか?」
キャラが反対側から更に聞く。
あれからグロウに会わないようにしてきた……会うのが怖い……でも、このままずっと会わないのは……ツラい……。