双星の魔女の困惑-3
「不毛」
『……うるせぇ……』
料理を作るグロウの後ろから声をかけるキャラに、グロウはムスッとして答える。
ここはリンの家、居候のキャラの役割は洗濯と掃除。
料理に手を出すとグロウに怒られるので、テーブルセット以外はやらない。
「眼中に無い」
『うるせぇって』
グロウは持っていたオタマでキャラの頭をパコンと叩いた。
「だあって……好きなら好きって言えばいいのに……」
手で頭を擦りながらキャラは頬を膨らます。
以前、グロウが言っていた『好きな女』とは、実はリンの事なのだ。
『言わない方が良い相手ってのも居るんだよっ』
グロウの言葉にキャラはモヤモヤする。
「好きだって言われて悪い気はしないと思うけど?」
『嘘つけ。ゼビア王に求婚されて迷惑がってたのはどこの誰だ?』
「あうっ……でも、あれはオレがファンの姫だからって求婚してきたんじゃねえか……事情が違うだろ?」
食い下がるキャラに、グロウはため息をついて話す。
『リンの本当の望みって知ってるか?』
「?長ぁい人生を一緒に歩いてくれる人を探してるって言ってたけど?」
『ま、それもあるが……自分の子供が欲しいんだよ』
昔……グロウがアースの一部だった頃に酔っ払って言っていたのを聞いた。
『あいつは避妊した事ねえ。アースとヤってた時もな。それでも子供が出来ないって事は、親父と体を共有していたからか、出来にくい体質か……分からんがな』
グロウは出来上がった炒飯を皿に盛り付ける。
『まあ、出来る可能性があったとしても俺との子供だけは望まないだろうな……』
魔獣と人間の間の子であるアースは、偶然と幸運が重なって溢れた魔獣部分であるグロウと分離できた。
その結果、アースはどっちかと言うと人間寄りの魔獣ハーフになったが、グロウは完全に魔獣だ。
そのグロウが子供を作ったら、確実にその子供は魔獣部分に食い破られる。
自分達のような幸運などそうそうあり得ないのだ。
『俺にはリンの望みを叶えてやる事は出来ない』
グロウは料理の手を休めずに続ける。
『俺が自分の気持ちを伝えてもリンは応えない。分かりきってる事だ……だから言わない。だけど、あいつの傍に居たい。例え……あいつの横に他の男が居ようとな』
グロウの動きがふと止まった。
『……結構……キツいけどな……』
自嘲気味に笑うグロウの背中にキャラは抱きつく。
『なんだ?躰で慰めてくれるのか?』
「馬ー鹿」
腰に回されたキャラの腕を撫でたグロウは、それをやんわりと外した。