side by 郁 - 普段すました顔の彼は意外と-1
“郁ちゃんがホントの恋愛おしえてくれる?”
最初はそれがどういう意味かわからなかった。
けれど、理解するのに時間はかからなかった。
―――――あぁ。
(あそびってことだ。)
悲しみやさみしさ、虚しさよりも、納得という言葉がしっくりきた。
だって、彼は知らないから。
私が、前からあなたを見ていたことを。
――――――――――――――――――――
いつもの仕事の風景で、ある男性の問診票が私の目に留まった。
(私と同じ住所・・・隣の部屋の人だ。)
たしかにここはアパートの近所。
住人が診察を受けるのは、容易に考えられることだ。
(そういえば、引越しの挨拶をしてくれた人はこんな顔だったような・・・)
薄ぼんやりとしている過去の記憶を辿る。
だけど顔の造形よりも、“形式上でやっているだけです”っていう態度の方が印象に残っていた。
(あまり良いイメージ持てなかったんだよなぁ・・・)
だからと言って、患者さんへの態度を変える訳ではないけれど。
しかしこの夏目将さんは、またしても私の目を引くこととなる。