D-1
畑作りを終えた翌日。
雛子は、朝寝坊してしまった。
畑を作っている間は、気が張って分からなかったが、かなり身体がまいっていたようだ。
「ふん……んんー!」
目覚めて時計を見ると、時刻は10時を過ぎていた。
「あいた!たたッ」
緊張の解けた身体は、ギシギシと音が鳴りそうなくらい節々が痛む。
「う……くく」
なんとか布団から這い出したが、眠りが足りないのか、座ったまま項垂れてしまった。
(まいったな。これじゃ1日の計画が台無しだわ……)
それは、昨夜のことだった。
畑の完成を祝おうと、皆を夕食に招いた。早川親子は勿論のこと、賛同者である高坂も誘っていた。
最初は、気遣いから会話も途切れがちだったのが、共通である哲也の話題をきっかけに、次第に打ち解けていった。
そうして、楽しいひと時も終わりを迎えた頃、
「先生。明日は何するの?」
ふいに、哲也が訊いたのだ。
「う〜ん、そうねえ」
雛子は、少しの間考えた。田植え休みはあと3日ある。その間、安穏と過ごすには勿体なさすぎる。
「明日は、家の片付けでもやろうかしら」
そう答えると、哲也は企みのある笑顔をした。
「長持ちの整理も待ってるからね!」
「なんだ?長持ちの整理って」
意味の解らぬ哲也の母親が訊ねた。
哲也は、先日のやり取りを聞かせてやった。
「こっちに来てひと月になるけど、まだ整理ついてないんだって」
すると、雛子の頬がみるみる赤く染まった。
「て、哲也くん!」
一斉に笑い声が挙がった。
雛子にすれば、何としても長持ちを片付けねばならなくなった。
項垂れた首がゆっくりと持ち上がった。憂鬱な顔をしている。
「朝からやろうと思ってたけど…」
この時間からでは、中途半端に終わってしまう。雛子は、醒めぬ頭を廻らせた。
「片付けは先延ばしにして、子供達の田植えの様子でも見に行こうかしら」
傾きつつあった思いを、慌てて否定した。
(今日あたりが1番忙しいだろから、却って邪魔になっちゃうわ)
あれこれと思案するが、浮かんだ側から却下だと思い直してしまい、中々定まらない。
「仕方ない……片付けをしようか」
あれやこれやと思案の末、結局、元の鞘に収まったようだ。