D-7
「あれ?」
その途中、庭に出たところで足を止めた。視線の先には、畑があった。
「へぇー」
黒い盛土が列を成す様に、男の顔が緩む。
「なんか、この先生とは馬が合いそうだな……」
結局、雛子が何処にもいないことが解ると、男は屋敷を出ていった。
「仕方ない……また夕方にでも出直すか」
そう言って、役場までの道を帰っていった。
「先生ッ、大丈夫?」
哲也が手を伸ばす。
「ハァ、ハァ……結構……きつい」
雛子は息も絶え々に、その手を掴んだ。
「しっかり!」
「ふん!んんんッ」
腹に力を入れて必死に這い上がる。手がかりのない岩面は容易に登れない。
「もうちょっとッ!」
「んぎ!ぎいいいッ」
哲也の引っ張る手が、岩の窪みを掴んだ。雛子の身体が、一気に上がった。
「だああッ!」
ようやく登りきった雛子。
今ので力を使い果たしたのか、声もなく荒い息を繰り返す。
「……とりあえずは…この先は平たい岩場…だけだから」
哲也はそう言うと、身を起こした。
「さあ…先生立って…」
「ハァ、ハァ…ちょっと…待って……休ませて」
懇願にも似た雛子の頼みに、哲也は首を横に振る。
「駄目だよ…休んでたら、動けなくなるから…ゆっくりでも歩こう」
「ハァ、ハァ…わ、わかったわ……」
雛子はよろけながら立ち上がる。先日、畑作りの時に、似たようなことを言われたのを思い出した。
(あの時も、哲也くんに迷惑かけちゃったな)
「先生。僕の肩に手を置いて、ゆっくり歩こう」
「……う、うん…」
2人は、再び前に進みだした。目的の場所まで、あと少しの距離だった。
岩場を登った雛子逹は、しばらく平坦な道を歩いた。
道といっても、踏みしめた跡があるわけではない。ゴツゴツとした岩面しかなかった。
そうして進むうちに、雛子の調子も戻ってきた。