投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

a village
【二次創作 その他小説】

a villageの最初へ a village 54 a village 56 a villageの最後へ

D-5

「此処は、山の神様が棲む家の玄関なんだ」
「ああ、そういう意味ねッ」

 哲也が袋の中身を取り出した。わら束で作られた人形だった。

「な、なあに?これ」

 訊ねた雛子の声が怯えている。

「これは“身代わり人形”なんだ」
「み、身代わり人形!?」

 哲也の話では、此処は、昔から仕来たりで女人の入山を禁忌としてきた。
 女人は汚れし者であり、入山すれば、村に禍をもたらすという理からだ。
 しかし、やむを得ず入山せねばならぬ場合、禍をもたらさぬ様に身代わりを立てるのだそうだ。

「へえー。そんな仕来たりがねえ」

 女性の入山が即、村に禍をもたらすとは思い難いが、古い習慣が今も生き続いていることに、雛子は感心した。

「母ちゃんが言うには、ずっと昔は、白い着物を着て登ってたんだって」
「何で、今はこんなに廃れてるの?」
「解らない。きっと、みんな山の神様が嫌いなんだよ」

 そう答えた哲也の顔が、哀しそうに見えた。

「それより先生!此処でお昼にしようかッ」

 言われた途端、雛子は空腹を覚えた。

「じゃあ、すぐに用意するね!」

 肩から斜めがけした風呂敷を解くと、中から竹の皮に包まれた弁当が現れた。

「先生、こっち来て」

 哲也が呼んだ。
 雛子が傍に寄ると、草むらの奥から水の音がしている。

「この水を、これで汲むんだよ」

 指さす先に、石蕗の葉があった。

「これを、こうやって……」

 哲也は石蕗を茎から取ると、広くて丸い葉をくるりと巻いた。それを見て、雛子はようやく合点がいった。

「ああッ!柄杓みたいにするんだ」
「そうそう」

 さっそく、真似て石蕗を取った。疲れていた顔が、嘘のように輝いている。

「出来た!」

 雛子は流れ落ちる水を注ぎ入れた。表面が日の光を反射して、まるで硝子の粒みたいだ。

「あははッ!」

 雛子も、少女のような瞳ではしゃいでいる。

「喉からから……」

 ひと口啜った。喉が鳴って、胃へと流れ込んむ。
 雛子は恍惚とした表情を浮かべて、汲んだ水を残らず飲み干した。


a villageの最初へ a village 54 a village 56 a villageの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前