D-4
「じゃあ、出発だ」
「ちょっと待って!」
「えっ?」
歩きだそうとした哲也を雛子が止めた。
「その背中の荷物は?」
背中に担いだズタ袋が気になったのだ。散策に出かけるにしては、かなりの大きさだ。
「ああ、これ」
哲也が、袋を指さした。
「山に入る時に必要な物。今日は、先生と一緒だから」
何とも意味深な言葉だ。
雛子は、すぐに食いついた。
「わたしと一緒って、何が入ってるの!?」
そんな雛子を、哲也は軽くあしらう。
「山の入口に着いたら見せてあげる」
「ええッ、此処じゃだめなの?」
「いい加減、出発しないと日が暮れちゃうよ」
「……わ、わかったわ」
ようやく、2人は出発した。
秘密の場所へと通じる山は、学校の裏にあった。
いつもの登校路。その坂道は、学校から先の山へと続いていた。
学校を通り過ぎてしばらく進むと、道は狭道に変わり、並んで歩けなくなった。
(へえ。いつもの道が、こんな風になってるなんて)
雛子は、哲也の後ろを付いて歩いた。
狭道は徐々に険しくなった。
普段は誰も使わないためか、道は草と落葉に覆われて、獣道の様を呈していた。
(……久しぶりだから、結構きつい)
最初は心躍らせて登っていた雛子の身体も、徐々に悲鳴をあげだした。
無理もない。昨日までの連日に渡る畑作りで、身体はまだ本調子になかった。
いつの間にか、視線は下を向いていた。
登り出してどれほど経ったろうか。日が真上を向いた頃、
「先生、ほら、あそこだよ」
「えっ?」
突然、哲也が歩みを止めた。
雛子は、道ばかりを見ていた目を上に向けた。
鬱蒼と繁った木々が開けており、その先に、木で拵えた小さな鳥居が行く先を跨いでいた。
「なあに?あれ」
「あれが入口だよ」
人の手が入らなくなって随分経つのだろう。鳥居の柱、笠木、貫に施された朱色は色褪せ、あちこちが朽ちている。
祀る神が記される額束も、何と書いてあったのか今では解らない。
「よいしょっと!」
雛子が呆けた顔で鳥居を見つめていると、となりで哲也が背中のズタ袋を解いた。
「何をするの?」
「今から、山の神様に挨拶するんだ」
「えっ?挨拶」
疑問の声を挙げる雛子に、哲也は「当たり前だろ」と、ややあきれ額だ。