D-2
「よいしょっと!」
物干しに布団と洗濯物を干した雛子は、くるりと後ろを向いた。
出来上がったばかりの畑が、畦を並べている。
「…きゅうりにトマト、茄子と…それと、さつま芋にじゃがいも、大豆もいいかも!」
嬉々とした表情で独り言を繰り返す。彼女の目には、既に立派に実った作物が見えているようだ。
「よし!次は薪作り」
威勢の良いかけ声と共に、裏へと向いかけたところに哲也がやって来た。
「せんせーーい!」
「あら!哲也くん、こんにちは」
「本当に片付けやってるんだ」
遠慮のないひと言が、雛子の頬をまた赤らめた。
「もう!本当に意地悪ねッ」
無邪気というか悪気はない。だから、大人の反応に戸惑うこともしばしばある。
「ご、ごめんなさい…」
雛子の声音に気圧され、哲也は神妙に俯いてしまった。
どうやら、やり過ぎてしまったようだ。
「わたしの方こそごめんなさい。つい、言い過ぎちゃったわ」
互いに許しを乞うて、ひとまず悶着は収まった。
「今日はどうしたの?」
昨日で畑作りは終ってる。
にもかかわらず、翌日にまた訪ねて来るには理由があるはずだ。
雛子がそのあたりを訊ねてみると、哲也は急に顔を曇らせた。
「片付けしてるんなら、暇じゃないよね?」
「どうして?」
「その……先生がいいなら。一緒に行ってもいいんだけど」
やけに勿体ぶった言い回し。まるで、誘い込んでるようだ。
(ひょっとして)
それは、雛子の好奇心を大いにくすぐった。
「ひょっとして、“秘密の場所”のこと?」
気持ちの昂りか、雛子は声が上擦った。
一方、哲也は小さく頷くが、その顔は俯いている──諦めている顔だ。
「うん。でも先生、忙しそうだから…」
「いいわよ」
「えっ?」
「行きましょう!秘密の場所にッ」
明るい声が返ってきた。
てっきり断られると思っていただけに、哲也の顔は一気に弾けた。