第1章-2
――翌日の土曜日
朝早く、香港出張へと出発する光一さんを見送ると、私は、いつものように掃除に洗濯と家事をして過ごしていました。
「あら、やだ。もうこんな時間。急いで仕度しなくちゃ」
今日は午後からマンションの管理組合の集会です。引っ越してきて日の浅い私にとっては、知らない人たちばかりでしょうから、正直気が進みません。
でも、昨晩、光一さんが言っていたように、いきなり欠席なんてしたらご近所付き合いに支障が出るかもしれないし、次回からは適当に誤魔化せばいいか、なんて思いながら、行くことにしたのでした。
マンションの1階には会議室があり、そこが集会の会場でした。
私が時間通りに会議室に行くと、席は半分ほどしか埋まっておらず、やはり欠席する人の方が多いようでした。
「市田さんの奥さん、こんにちは」
後ろから声を掛けられて振り向くと、峰岸さんでした。
「こ、こんにちは…」
「そろそろ始めますから、適当に座ってください」
「は、はい。ありがとうございます…」
あのギラギラした顔が苦手だからでしょうか。私は、意味もなく緊張してしまいました。
私が後ろの空いている席に座ると、会長の峰岸さんは一番前の中央の席に座り、集会が始まりました。
「それでは、定例の会議を始めます。今日は、初めて出席される方がいらっしゃいます。市田さん、よかったら一言挨拶をお願いします」
(えっ…!?)
皆さんが好奇の目を向けてきて、断れる雰囲気ではありません。
私は席から立ち上がり、
「あ、あの…先日202号室に越してきました市田です…今日は主人が出張なので、代わりに出席しました…よろしくお願いします」
パラパラとした拍手の後、会議は始まりました。
会費のことやら、修繕のことやら他愛もないことが滞りなく進み、1時間ほどで終了しました。
「以上で、本日の会議は終わります」
終わりを告げる、峰岸さんの言葉。
「あぁ…それから、毎度のことですが、懇親会の用意をしていますので、皆さん是非、出席してください。場所は、いつもの寿司屋ですよ」
(えっ…!?懇親会?そんなの聞いてないよ…)
「昼間から寿司をつまみながら酒を飲めるなんて、幸せだよ」
「山本さん、そんなこと言って、呑みすぎたらダメですよ〜」
「高い管理費払ってるんだから、これくらいはね〜」
それまで、黙りこくっていた人たちが急に明るくなり、楽しそうにお寿司屋さんへ向かって行きました。