ご奉仕がお上手。-1
(スー・・・ハー・・・)
一呼吸。
覚悟を決め、一歩を踏み出す。
・・・つっても、ただの歯医者なんだけど。
そう、ただの歯医者だけど、怖いものは怖いのだから仕方がない。
こんにちは、と定型的なあいさつをする受付のオネエサンに診察券を渡し―――――渡し・・・・・・
『・・・え?』
そこに佇むのは郁だった。
やっぱり気づいてなかったんですね、と笑って俺を診療台に促し、紙のエプロンをつけてくれる郁。
え、まだ開いた口が塞がらないんだけど・・・
ホントに社会人だったんだ、とか、前からこんな可愛い子いたっけ?、とか。
頭が混乱していて言葉が出ない。
そんな俺を尻目にニッコリとする郁。
「じゃあ今日もクリーニングの続きですね。椅子、倒れますよ?」
『え!?郁ちゃんがやるの!?』
慌てて振り返る俺に、信用ないですねぇ、と郁が小さく頬を膨らませた。
「ちゃんと国家資格も持ってるのでご安心ください。
と言うか、夏目さんは歯ぐきの状態もとっても良いので痛みようがないですよ。」
ホントかよ、と心の中で信用できないままユニットが倒れたが、予想外。
痛みなんてまったくなく、つつがなく診療は終わった。
診療室から出たとたん気が大きくなった俺は、次回の予約をする郁にあることを耳打ちした。
郁はその耳を手で押さえ、口をぱくぱくと開閉している。
その様子を見て、約束ね、と告げると、俺は歯科医院を後にした。