カオルD-2
須美江が小学校に到着したのは、練習終了である8時ちょっと前だった。
(あ、いたいた)
窓外から様子を窺った。
ネットを挟んで練習してるところを見ると、試合をやってるようだ。
須美江は、その奥に目をむけた。先に来た親逹が、じゃまにならない場所からわが子の練習を見つめてた。
「こんばんは!」
須美江は中に入り、他の親御さん逹と挨拶を交す。
団体競技を習う子供同士はもちろんのこと、親同士も、親交を深めるのは必然である。
大会の参加や練習試合、レクレーション等の催し事の実行は、お互いの協力なしでは成り立たないからだ。
逆に、それが出来ないのなら、団体競技を習うるべきではない。出来ないことで、疎外感を味わなければならなくなる。
入部する時、監督の座間に言われた言葉だ。
「藤木さん!」
須美江に声がかかった。直樹の母親、嶋村美幸だった。
「こんばんは、嶋村さん」
美幸は、須美江より10歳年下だが、息子同士が同級生ということもあり、親しくしている1人だ。
「薫くん、頑張ってるわよ」
「えっ?本当に」
須美江はコートの方を見た。試合形式で行われている練習に、薫はBチームの後衛で参加していた。
「最初から、ずっとあのポジションなのよ」
聞けば、サーブ権を取る毎にポジションは移動するのだが、薫だけは後衛に固定されてるそうだ。
「まだ始めたばかりで、試合の流れを理解させるためだって。監督が」
「仕方ないわ。みんなと同じように扱われたら、却って迷惑かけちゃうし」
須美江はそう答えたが、内心穏やかでない。
(まだ日も浅いのに、試合なんて…)
もっとボールの扱いが上手くなってから、試合に出るとばかり思っていた。
しかし、そんな考えも、薫の姿を追ってるうちに消えてしまった。
「次、次ィ!切り替えてッ」
直樹は、手を叩いて自チームのBチームを鼓舞する。
他のメンバーも声を挙げて応える中、
「打ってこい!」
薫も同様に声を出していた。
(お家でも、あんな声出したことないのに…)
震える仔犬のような目をしながら、健気にも声を張る息子の姿に、須美江は歓喜に打ち震えた。
まさに、親バカたる所以である。