カオルD-13
「でも、あのコンビニの客たち見た?」
姉の問いかけに、薫は無言で首を横に振った。
「みんな、あんたの方をジっと見てさあ!特に立ち読みしてたおじさん達なんか、惚けたみたいにッ」
喜色満面で話しかける真由美だが、薫は俯いたままだ。
「お姉ちゃん…」
消え入りそうな声がした。
「こんなこと…もう嫌だ」
小さな、しかし初めての否定だった。
真由美はやり過ぎたと感じた。
「ごめん…」
「もう、こんなことしないで」
「わかった…」
2人の声が熄んだ。
真由美は後悔した。一番の理解者のはずなのに、弟のことを考えてずに自我を徹してしまったと。
目の前の横断歩道で歩みを止めた。行き交うクルマが見えた。
「あれ?」
その中の1台に、ひとみが乗っていた。
彼女はすぐに、横断歩道にいるのが真由美だと判った。
窓を開けて声をかけようとしたその時、
(誰?あの子…)
隣にいる女の子に目がいった。
(あの髪…なんで?)
自分が真由美にあげたウィッグだと、すぐに判った。
走り去るクルマの中で、ひとみはその意味を考えていた。
「カオル」D完