カオルD-12
「ちょっと上むいて」
「ん…」
淡い色が、唇をなぞっていく。
「ヨシッ!オッケー」
艶やかな唇が現れた。
真由美は、頬を上気させて薫の肩に手を回した。
「本当に、このまま襲っちゃいたいくらいだけど、それは後の楽しみに取っといて」
そう言うと、企みのある眼をした。
「せっかくだからさ、買い物に行こうか!」
「ええッ!?」
「ヨシッ、行こう!」
言うが早いか、真由美は薫の手を引いて部屋を出た。
「ちょ、ちょっと!お姉ちゃんッ」
さすがに、薫も精一杯の抵抗をみせる。
「そんなッ、ダメだよ!」
「なに言ってんの!それだけ可愛けりゃ、誰も気づかないって」
「そ…そういう意味じゃないッ」
「そこのコンビニまでだからッ、下むいてりゃいいから」
しかし、真由美の前では全てが無駄だった。
「…お姉ちゃん」
玄関前。薫は震える声で姉を呼んだ。
扉1枚むこうは外だ。そう考えると不安で堪らない。
「心配ないって。知り合いがいたら、わたしの背中に隠れなさい」
一方、真由美は楽天的だ。不安なぞ微塵も感じてない。
「行くよ」
玄関が開け放たれた。薫は、すぐに姉の後ろで小さくなった。
「そんな格好したら、余計に怪しまれるわよ!」
「う、うん…」
「堂々としてなさい。わたしの横歩いてさ」
2人は、ようやく歩きだした。
最寄りのコンビニまでの距離は100メートルほど。
その間、薫は俯いたまま、真由美は時折、弟に目をむけて歩いた。
コンビニに着いた。
休日の昼間だというのに、店内はわりと混んでいる。
「牛乳と、ロールケーキっと…」
真由美が楽しそうに物色する間も、薫は寄り添うように付いていった。
店内を歩き回る2人に、他の客の視線が注がれる。そのほとんどが、美しい少女だけを追っていた。
誰も“姉弟”とは気付かずに。
「楽しいから、本屋まで行こうか?」
買い物を終えて真由美が言った。
「そ、それは…」
薫は、今にも泣き出しそうだ。
「冗談よ。結構、わたしもドキドキしたんだから」
安堵のため息が漏れた。