契約@-12
「どうですか? 修一さんっ」
入れ替わり、ミルルが白いワンピースの裾をヒラヒラさせながら一回転し、麦わら帽子の鍔を軽く摘んだ。
「つか、麦わら帽子どっから出てきたんだ……?」
「二人とも良く似合ってますわっ」
何故か花梨のテンションも上がり気味で、二人にあれこれコーディネートの提案を始める。
「悪魔も淫魔も所詮は女の子かよ……」
修一は一人蚊帳の外。
わいわいがやがやを聞き流しながら、怠そうに欠伸を吐き出した。
「よかったら、全て差し上げますわ」
「ちょっ、花梨っ。それは流石に悪い」
修一の眠気がすっ飛んだ。
「気になさらないで? どうせもう着れませんもの……」
「そりゃそうだろうけど……ん?」
修一は室内の異変に気付き、辺りを窺う。
「メイドさんはどうした?」
「靴の別邸へ幾つか取りに向かわせましたわ」
「は?」
「服を変えるなら靴も変えませんと」
「いや、お前、それ……」
「もちろん、差し上げますわ。片桐にはお世話になってますもの」
花梨は頬に両手をあてると、恋する乙女のようにぽっと赤くなるのだった。
「俺がお世話!?」
「なんや修一、デキとんのか?」
彼は激しく首を横に振る。
「いや……性処理には使うつもりだけど……」
「おおっ! 牝豚二号か!」
「豚とは失礼なっ。せめて便器と仰って?」
「いや、それ多分格下がってるぞ……」
苦笑する修一を余所に、クランはニヤニヤしながら花梨に尋ねる。
「んなアレか? 修一の小便飲んでんのか?」
「当然ですわっ。片桐のお小水は身を焦がして、キュンキュンして、ゾクゾクする貴重なものですもの」
「修一さん、変態な上に鬼畜なんですねっ」
胸元の両手をグーにして身を乗り出すミルルに
「お前、なんで嬉しそうなんだ?」
修一は乾いた笑みを浮かべる。
しかし
「コイツ、悪魔やな」
というクランには
「お前にだけは言われたくないっ」
ときっぱり言ってやったのだった。