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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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やっぱすっきゃねん!VR-8

(初球はセオリー通りで)

 達也は、外角低めに構えた。
 直也が、構えたミット目掛けて投げ込んだ。
 風切り音とともに、革を叩く音がした。心地よい音だった。

 上手いキャッチングは武器となる。投じたボールを捕った時に心地よい音を響かせれば、ピッチャーは調子の良さに腕が振れ、バッターは威力があると身構える。

 達也は、それができるキャッチャーだった。

 バッターは初球を見送った。何の反応も見せずに。

(変化球狙いか…)

 直也は、もう1球、外角低めだと思った。
 達也からサインが出る。

(外角低めの真っ直ぐ)

 互いの考えが一致した。
 セットポジションから、2球目を投げた。今度は、初球よりわずかに外へと外れた。
 当然、これにも反応を示さない。

(おそらく、カーブ狙いだな)

 相手の狙いが解った以上、それを半端には使えない。達也は一転、内角責めに切り替えた。
 3球目を真っ直ぐ、4球目にスライダーを投じると、バッターはカットして粘った。

(これだけ意識させれば、いいだろう)

 頃合いと見たバッテリーは、意外なボールを投げた。
 外角高めにすっぽ抜けた球。バッターは、打つ気を殺がれたままで軌道を追っていた。
 ところが、ボールは途中から鋭い弧を描き、ベースの一端を掠めて低めに決まった。

「ストライク・スリー!」

 バッターは、狙っていたはずのカーブを見逃して三振した。

「ナイスピーよ!」

 達也の狙い通りに事が進んでいた。
 最初から失点阻止と考えれば、無駄に力んでしまう。1点を覚悟したことで力むこと無く、本来の力を発揮できるのだ。

 ただ、ここからが正念場だ。2アウトになったことで、再び絶対に抑えようと心が動いて、平常心を失い易い。

 達也としては、2番バッターで斬っておきたかった。

(ここはズバッと行こう)

 両手を大きく広げて、真っ直ぐを要求した。
 直也の球威なら、打っても外野の頭は越せないと踏んだからだ。
 直也が、セットポジションから左足を上げた。
 軸足に充分体重をかけ、低い重心から思い切り右腕を振りぬいた。

「あッ!」

 ボールをリリースした瞬間、直也が声を挙げた。指を滑ったボールが、バッターに向かっていったからだ。
 バッターは、わずかに腰をひいた。ボールはユニフォームの腹の辺りを掠めて、達也のミットに収まった。
 相手にとっては、嬉しい誤算でありチャンス再来だ。逆に青葉中にしてみれば、避けたかった場面を迎えてしまった。

 2アウト満塁で、打席は最も得点圏打率の高いバッターを迎えた。一発出れば逆転である。


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