やっぱすっきゃねん!VR-2
(カーブ…!)
ボールが大きな弧を描いて、低めへと落ちてくる。
直也は、身体が前へと流れるのを辛うじて堪え、バットを振り出した。
ボールを擦った──そんな感触が掌に残った。
力ない打球が、ふらふらと上がった。
「くそっ!」
直也は、バットを地面に叩きつけて悔しがる。前進守備だったセカンドは、後ろに回り込むと大事そうにボールを掴んだ。
「あ〜あ…」
ベンチの中で、落胆の声が挙がった。その途端、佳代の中に、激しい憤りが湧いた。
「戦ってる最中に、そんな声だすな!」
誰もが声の方を見て驚いた。
ベンチに気まずい沈黙が広がった。
「誰だって、勝ちたくて必死にやってんだ!」
「わかった。佳代、もうよせ」
近くにいた橋本淳が、熄めさせた。
「さ、さあ、まだ1アウトなんだ!一ノ瀬に期待しようぜ」
秋川も、すかさずフォローに入った。おかげで、ベンチの雰囲気はすぐに戻った。
「淳、ごめん…」
項垂れる佳代。いつもと様子が違う。淳は理由を訊きたい思いに駆られたが、
「この話は帰りにな。今は試合中だ」
さっさと話を切り上げ、グランドに視線を戻した。
そして、いつもと違うのがもう1人、直也がベンチに戻ってきた。
憮然とした表情。荒い足音を立ててイスに腰掛けると、むしり取るようにヘルメットと手袋を外した。
「気にするなよ!次で打ちゃいいんだからさ」
周りが気を遣って励ますが、
「うるせえよ…」
ひとこと毒づいて立ち上がり、ベンチ裏に消えてしまった。
そして、再び現れると、中里を連れてベンチを飛び出しキャッチボールを初めた。
その様を見て、佳代の心は疼いた。
「直也…」
「あれ以上、構うな」
手を差しのべようとするのを淳が止めた。
「自分に腹が立って仕方ないんだ。ほっといてやれ」
「う、うん…」
キャッチボールを続ける横顔には、険しさが滲んでいた。
戦況を見つめる永井の心は、焦燥していた。
最大のチャンスが廻ってきたのに、生かせそうな雰囲気が感じられない。
もし、ここで無得点に終わってしまったら、試合の流れが相手に傾く可能性もある。
一度傾いた流れを、再び引き戻すだけの力は今の青葉中にはない。それは、どうあっても避けたかった。