やっぱすっきゃねん!VR-19
一哉は席を立った。
「今の考えなら、オレは教えるつもりはない。辞めさせてもらう」
上からの視線で、永井を睨めつけると、
「あんたには、がっかりさせられたよ」
踵を返して、職員室の出口に向かった。
その時、一哉の背中に声がとんだ。
「わたしの方が、がっかりさせられましたよ」
「なんだと……」
一哉は振り返った。永井は立ち上がり、ゆっくりと近寄っていく。
「甲子園、準優勝投手。豪腕と称えられて、一世を風靡したあなたの指導を受けられると聞いて、わたしは心底喜びましたよ。
榊さんは、素晴らしい置き土産を残してくれたと」
一歩々と近づいて、とうとう一哉の前に立った。
「…事実、素晴らしい指導でした。わたしなんか足下にも及ばない知識と経験を、子供逹に与えてくれましたから」
永井は、ここまで一気に話すと、ひと呼吸を置いて、「でもね」と前置きを入れた。
「あなたは“勝つ”ことのなん足るかを忘れてしまったようだ。
甲子園での何物にも換え難い体験を、あなたは忘れてしまった」
「勝手に言ってろ…」
一哉は、侮蔑の眼差しを残して立ち去ろうとした。
そこに、再び声がかかる。
「藤野さん…」
一哉は振り返らない。
「辞めるのは、大会後にしてもらえますか。子供逹が、ナーバスになるでしょうから」
職員室の扉の前にさしかかった。
「そのくらいの分別は、持ち合わせています…」
一哉は、ひと言を置いて出ていった。
──そんな!
あっけない瓦解。一部始終を目の当たりにしても、葛城は信じられなかった。
「やっぱすっきゃねん!」VR完