やっぱすっきゃねん!VR-18
地面に映る影が長くなる頃、選手逹は帰路についた。
永井に葛城、そして一哉は、校舎へと移動した。
「藤野さん、今日はありがとうございました!」
職員室の一角。パーティションに囲まれたソファーに、3人は腰かけた。
「最初は不安でしたけど、やって良かったです」
葛城も、練習の手応えに喜んでいる。
「あれだけ練習したんですから、必ず結果を出してくれます!」
永井も同意の声を挙げた。
しかし、一哉は、ひと言も喋ろうとしない。
葛城が異様さに気づいた。
「あの、藤野…」
声を掛けようとするのを、永井の声が遮った。
「明日は、ベンチ入りのメンバー全てを注ぎ込んででも、勝ちに行きますッ!」
この時、ずっと黙っていた一哉が口を開いた。
「…永井さん」
感情を殺ぎ落とした、重苦しい声だった。
「今日の試合、何故、直也を完投させたんです?」
たった今まであった、明日への意気込みは消え失せていた。
「何故、前日に先発だった省吾を、早くからブルペンに行かせたんです?」
「藤野さん。もうやめて…」
そこまで言って、葛城は息を呑んだ。炯る眼が、凄まじい憤怒を表していたのだ。
「あんた、かけがえのない才能をどう想ってんだ?くだらん勝利至上主義のために、あいつらを潰す気か?」
そんな一哉を見ても、永井はとり乱していなかった。
「くだらん?勝利至上主義?」
永井は、哀しい眼をした。
「オレは最初に言ったはずだ、大人のエゴが子供逹を潰すと。榊さんの下で何を学んできたんだ!」
声が熄んだ。短い沈黙の後、永井は言った。
「わたしは、そうは思ってませんし、今でも、榊さんの教えを守ってますよ」
真っ向からの反論。緊迫した空気が、対峙する2人の間に降りた。
「子供を酷使しても勝つのが、榊さんの教えとでも言うのか?」
「今の藤野さんには、何を言っても無駄です」
──一触即発。そんな雰囲気になった時、
「いい加減にして下さいッ!」
悲鳴のような声と共に、葛城がテーブルを叩いた。
「何なんですか!こんな日にいがみ合うなんて……明日は決勝なんですよッ」
必死の仲裁。葛城の目に、光るものがあった。