やっぱすっきゃねん!VR-17
「でも、もし、この練習で打てなかったら、子供逹はさらに落ち込むんじゃないでしょうか?」
「その時は諦めるしかありません。でも、手を尽くさずの後悔は、わたしはしたくない」
永井は覚悟を明かした。それを聞いた葛城は、追訴をやめた。
一哉が投球練習を続ける中、準備を終えたレギュラーは、素振りを始めた。
下加茂、中里、川畑などの控えは外野の守備に着いた。
「澤田」
永井が呼んだ。
「おまえは、主審の位置でボールを見ていろ」
「はい!」
佳代は、プロテクターを着けて葛城の後ろに立った。
「準備は出来た。入っていいぞ」
試合同様に、乾が打席に入る。
「お願いします!」
乾は気合いを入れた。今日の試合での出塁は果たしたが、快音を響かすことが出来なかったのを悔いていた。
「いくぞ」
左足が上がった。一哉は、力感のないフォームからボールを投げた。
(こんな棒球!)
乾は、小さなステップからバットを振りだした。
──捉えた!
そう思った瞬間、乾は、掌に異様な感触を感じた。
そして、力ない打球が一哉の前に転がった。
「…な、なんだ?」
乾は、口をあんぐりと空けて惚けた顔をしていた。
(手元で、変化した…)
間近で見ていた佳代も驚いた。
一哉が、選手逹に言った。
「これが、沖浜中のエースが得意とするボールだ。
小さな変化だから、見切りが早いと真っ直ぐと間違い易い。
いいか。打席の位置を少し下げて、逆方向を打つ要領で打て」
乾は打席のいちばん後ろに立ち、バットをひと握り余した。
「いくぞッ」
一哉は再び投げた。乾は、ステップするタイミングを遅らせ、バットを振った。
──キンッ!
心地よい金属音が鳴った。
速い打球が、三遊間に転がった。
「いいぞ!どんどん打ち込めッ。ひと廻りしたら、他の球種も混ぜたコンビネーションでやるからな」
選手逹は、カットボールという未知なるボールへの対抗措置に、執念を燃やす。
焦がすようだった日射しは、いつしか和らいでいた。