やっぱすっきゃねん!VR-15
「それより、子供逹に食事を与えないと。朝食べたっきりでしょう」
「それはそうですが、今から買いに行くとなると…」
永井の口調に苛立ちが見える。一刻も早く練習をやりたいようだ。
「そう思って人数分の軽食を買って来ました。わたしも準備に時間がかかりますから、その間に摂らせては如何です?」
一哉の説諭、というか抜け目ない準備に、永井は従うしかなかった。
サンドイッチにバナナ、それにスポーツドリンクという簡単な食事だが、選手逹は、ひと時の休息を楽しんだ。
自ずと先ほどの試合が話題にのぼった。今はもう緊張はない。闘いを終えた安堵感が漂っていた。
永井と葛城も、ご馳走になっていた。その間、一哉は1人、準備に取りかかった。
軽く身体を動かした後、ランニングにかかった。焦がすような日差しと粘つく空気の中を、黙々と走りだした。
──なんか、違う。
佳代は、その異様さに気づいた。
いつもの一哉から感じる“不器用な優しさ”がない。代わって伝わってくるのは、氷のような冷たさだ。
(コーチ、どうしちゃったの?)
佳代の頭に、漠然とした不安がよぎる。
「どうかしたのか?」
すると、目ざとい仲間逹から声がかかった。
「ずっとグランド見て。そんなに藤野コーチが恋しいか?」
直也が茶化した。
佳代の顔が、みるみる険しくなった。
「ほんっとう!バカだねッ」
「おまえ!…ひとをバカ呼ばわり…」
「バーカ!バーカ!バーカ!」
罵り合い──いつものことだ。周りも関わろうとしない。
そしていつも、
「いい加減にせんか!」
永井の注意で収束するのだが、その日は違った。先に一哉の怒声が飛んだ。
「食事を終えたら、さっさと準備を始めろ」
冷たい口調に佳代だけでなく、達也や淳など、小学生の頃から一哉を知る者も異様さに気づいた。
「今日のコーチ、初めて会った頃みたいだな…」
何者も寄せつけない雰囲気が漂っている。
佳代は、只事でないと思った。
食事を終えた選手逹は、一哉と入れ替わるように準備に取りかかった。
「葛城さん、お願い出来ますか?」
一哉は、葛城とキャッチボールを始めた。
じっくり時間をかける暇はない。選手の事を考えれば。
「じゃあ、マウンドに行きます」
30球ほどでキャッチボールを切り上げ、ピッチング練習に移った。