やっぱすっきゃねん!VR-13
両腕を高くかかげて振りかぶる。一瞬、動きを止めて、強く息を吐き出す。
制球が定まり易くなる──一哉に教わったことだ。
直也は、残った力の全てでボールを投じた。
渾身の真っ直ぐに、バッターのバットは空を斬った。
「ストライク・スリー!バッターアウトッ」
主審が、試合終了を告げた。
──やっと終わった。
直也が、握り拳を小さく振った。もがくようなまま、最後まで投げきったのだ。
スタンドから、湧きたつような歓声が挙がった。
青葉中は、決勝進出を決めた。
勝利の余韻にひたる暇はない。次の第2試合のために、ベンチを明け渡さなければならない。
慌ただしく荷物を抱え、ベンチから出口にへと通路を歩いていると、向こうから、これから試合のチームが現れた。
沖浜中だった。
「永井さん。決勝進出おめでとうございます」
先頭を歩く永井に、声がかかる──沖浜中の監督、夏川慎吾だった。
ここ10年の間に3度の全国大会出場。年齢は永井よりひと廻り以上年上だが、老獪な試合を極端に嫌う性格。
「試合巧者の青葉さんらしい勝利でしたな」
夏川の皮肉めいた言葉がとんだ。
「ありがとうございます。沖浜中さんと違って打力のないウチは、あれ以外、選択肢がありませんから……」
相変わらず、いけすかない男だ──永井は頭を下げながら、疎ましく思った。
「明日は、お手柔らかにお願いしますよ」
夏川は高笑いを見せて、歩みを進めた。選手逹が後に続いた。
(試合前に勝った気でいやがる)
尊大さが鼻につく。
だが、過去の実績を考えれば、仕方ないことだと永井は思った。
球場を出ると、応援者の面々が笑顔で待っていた。
「佳代ッ!あとひとつだね」
選手の各々に、ひとが集り、労いの言葉をかけた。
「もう!有理と2人で、ずっとヒヤヒヤしてたよッ」
「わたしも。ベンチの中で、ドキドキして観てた」
「わたしも有理も、沖縄に行くつもりにしてるんだからねッ」
そして、明日の希みを託した。
やがて、ひと通りの賑わいが収まった頃合、永井が選手逹を集めた。
「みんな、先ずは決勝進出おめでとう」
冒頭に賛辞の言葉。
今までにないパターンは、選手逹を戸惑わせた。