やっぱすっきゃねん!VR-11
「ラスト行くか」
「どうぞ!」
マウンドに向かって、キャッチャーは快活な声を挙げた。
ピッチャーは、軽く左足を踏み出して右腕を振った。
ボールは、ホームベース手前で小さく変化し、キャッチャーのミットに収まった。
「いいですね。シュートしながら、落ちましたよ」
「そうか。何とか間に合ったようだな」
マウンド上の藤野一哉は、満足気に頷いた。
彼は昔、所属していた社会人野球チームの練習場を訪れていた──ある依頼を請けて。
「硬式と違って、結構時間がかかったよ」
クールダウンのキャッチボールを交えながら、一哉がこぼした。
「確かに。軟式じゃあ、ほぼ見ない球種ですからね」
「とにかく、助かったよ」
キャッチャーは「いえいえ」と答える。
グランドでは、守備練習の真っ最中だった。陽炎の立つ中で、威勢のよいかけ声が挙がっていた。
「監督にも、よろしく言っといてくれ」
一哉は、キャッチボールを終えると駐車場に向かった。
「今度は指導に来て下さいよォ!」
背中に声がかかった。嬉しい言葉だった。
だが、一哉は、かすかに笑みを見せるに留めた。
「オレなんかより、コーチにお願いしろ」
それだけ言うと、グランドを後にした。
「さあ!ビシっと終わらせてこい」
永井の檄がとんだ。選手達は、最後の守りに散った。
9回表。大谷西中の攻撃。
青葉中は、6回の先制以降、さらに1点を追加して点差を3点に拡げていた。
マウンドに立ったのは直也。苦しい状況に何度も遭ったが、なんとか1人で投げ抜いてきた。
(やっと、ここまできたか…)
投球数は、とうに100球を過ぎていた。彼にとって、未知の領域だった。
だが、畏れは無かった。淳や省吾を温存できたことの方が、意義深いと考えていた。
直也の投球練習が続く中、青葉中の応援者が占める3塁側スタンドに、1人の男が入ってきた。
藤野一哉だった。
彼は永井逹と合流すべく、球場に現れたのだ。
まだしばらく時間はある。彼は試合を観て待とうと思った。
グランドに目をやった。そこで見た光景に、一哉は、何ともいえない違和感を覚えた。
(何で?直也が投げてんだ…)
そう思った途端、急速に彼の心を嫌悪が広がった。