居場所-4
店を出る頃には、一人でまともに歩けないほど、私は泥酔してしまっていた。
ふらつく身体を支えられながらなんとかタクシーに乗り込んだが、意識が混沌として言うべき行き先がわからない。
……ここ……どこだっけ。
頭がグラグラして顔が熱い。
一輝が運転手に何か話しかけているのがわかったが、声にうわんうわんと奇妙なエコーがかかって内容が聞き取れなかった。
こんなひどい酔い方をしたのは初めてかもしれない。
一輝にすすめられるまま飲み干してしまった何杯かのカクテルが、私の思考能力を大幅に減退させていることは間違いない。
口当たりがよくて、そんなにきついお酒だとは気づかず飲んでしまった。
「仕組まれた」と考えるのは、自意識が過ぎるだろうか。
酔わせて、抵抗できなくさせて、手に入れたい―――。
私は一輝からそんなふうに思われていると、自惚れてもいいのだろうか?
その自惚れの先にあるものが、嫉妬と憎しみに満ちた暗黒の未来だとしても―――。
「……気持ち……悪……」
「――吐くか?」
そう言われてどうにかこうにかうっすら目を開ける。
膝の上に広げられた物を見ると、それはさっきまで一輝が羽織っていたスーツのジャケットだった。
ああ……私、迷惑かけてるなぁ……。
そんなみっともない自分が情けなくもあり―――ほんの少し、嬉しくもある。
ここ何年もの間、人に迷惑をかけられることはあっても、自分が誰かに迷惑をかけることなんてなかったように思う。
そういうことが出来る相手が、いつの間にか私の周りに誰もいなくなっていたのだ。
「―――少し、寝てろ」
ぐいと抱き寄せられるままに、一輝のたくましい肩に頭を預け、ぐったりともたれかかった。
……一輝……。
鼻腔に忍び込むデザイアーの甘い刺激。
安心感と不安感が同じ速度で膨らんで、私の中を一気に満たしていった。
―――――――――――――
車が走り出すとすぐに、奈落の底に落ちるように睡魔が襲ってきた。
……このまま……眠りたい……。
一輝の家庭のことや、職場での孤立感。
そういう足枷から今だけは開放されたかった。
こんな気分のまま一人の部屋には帰りたくない――――。
帰りたくない………。
帰りたく………ないよ………。
深い眠りの淵に意識が完全に沈みかけた時――――太腿のあたりに温かいものが触れた気がして、私はハッと我に返った。
「……ん……」