第2章-4
「いつから、お前の彼女になったんだよ?だいたいな…相手はまだ小学生だぞ…。手を出したら間違いなく、お前はムショへ行かされるぞ…分かっているのか?」
「んな事は承知さ…だったら、牢獄に入る前に美味なるモノを喰ってから入るのも、悪くは無いだろ?あ…いや…すまん…、ちょっと興奮しちまってた」
冷静さを取り戻したヒロシは、ユウイチの顔を見る。
「あれだ…突然、目の前に天使が舞い降りて来て、それを夢中で追い掛けたくなる様な症状に駆られた気分みたいなものだよ。悪気は無かったんだ。許してくれ」
「イヤ…、そんな訳の分からない例えで誤魔化そうとしても無理だ。明らかに今のお前の行動は、男性としての モラルを越えて犯罪に走ろうとしていた。俺が悪い奴だったら、もう少し状況を見送って、ケイタイの画像に証拠を残して置いただろう…だけど、身内の子を傷付けたくないから、こうしてお前を止めたんだ。少しは反省しろ、あと…二度とルイには近付くな!分かったな?」
ユウイチに叱られると、ヒロシは何も言わず自分の家へと戻って行く。その姿を無言の眼差しで見ていたユウイチは運転席にもどり、ひと息吐く。
「ごめんなさい…」助手席に座っていたルイがユウイチに向かって謝る。
「いいんだ、ルイちゃんは何も悪くは無い…」
その表情は、少し寂しげな雰囲気を漂わせていた。ユウイチは、車のエンジンを掛ける。
「さあ…もう少しで家に着くからな」
二人を乗せた車は、田舎道を走り出す。砂ぼこりを撒き散らして、夏の午後の陽射しの中、既に時刻は午後五時に指し掛かっていた。
田舎の奥へと続く道、陽射しが出ているのにも関わらず、周囲は薄暗くなり、夏でも気温が低く少し肌寒さを感じられた。周囲は大きな木々に覆われていて、人気のない道がしばらく続いた。やがて前方に大きな屋敷が見えて来た。
檜で作られた古い大きな家だった。築六十年以上経過した古風の家だった。まるで、その一角だけ時間の流れが止まったかのように思えた。
家に着くと、それまで曇っていたルイの表情に明るさが戻った。
「わあ…、久しぶり…」
嬉しそうに叔父達の住む家を見て、ルイは瞳を瞳を輝かせていた。
ルイが、久しぶりに訪れた親戚の家を見ていると、家の中から、走って来る足音に気付く。次の瞬間小柄な姿の子が、ルイを抱きしめた。
「よお、ルイちゃん久しぶりー。なかなか来ないから心配したんだぞー。責任とれよ」
陽気な声で話し掛けて来た子は、一瞬男の子と…?見間違えてしまう位元気で明るい女の子だった。
少し小麦色の肌をしていて、丸い瞳で、顔には少しソバカスがあり、フサフサの栗色のショートヘアーが印象的だった。
「こんにちは、アキちゃん、お久しぶりー」ルイは、抱きついて来たアキと言う名の女の子に話し掛ける。
「ルイちゃん、今はもう…『今晩は』の時間よ」
「あ…ごめんなさい『今晩は』」
「いいって」
アキは、手を振って答える。
「今晩は、ルイちゃん。いらっしゃい…」
家の中から、別の人の声が聞こえた。四十代過ぎの女性だった。背丈が高く、穏やかそうな雰囲気を見せていた。
「今晩は、叔母さん…少しの間ですが、お世話になります」
背を折り曲げてルイは、叔母に挨拶をする。
「姉さん、ただいま」
「おかえりユウイチ」
「兄さんからは、連絡はあった?」
「ええ、ついさっきね。車を修理屋に持って行って、分解して組み立て直す…と、言っていたわ…。何で、先月買ったばかりの車を、そんな風にするのかしらね?」
「さあ…、俺も兄さんの行動は読めないよ」
ユウイチは、ルイが、周囲の景色目を奪われている間に、アキと叔母を呼び寄せて、小声で話しをする、「うん、分かった」と、答えてアキは、ルイに近付く。
「ネエ…ルイちゃん、シャワー浴びようか」
「あ…私は、あとでも構いません…」
「こっちに来るまでに汗かいたでしょ。夕ご飯、まだ作っている途中だし、先にシャワー浴びたら」
叔母にも言われルイは、「分かりました」と、アキに引っ張られて離れにある浴室へと向かう。
浴室へと向かった二人を見ていて叔母がユウイチに話し掛ける。
「貴方の言った通りね、昼間の電話の時の雰囲気と比べると、何か感じが凄く変わっているわ」
「多分、学校で待っている間に何かあったと思う。何よりも様子が変だった…服も少し汚れていたし…、怯えている感じがした。後…ヒロシの奴も、危うく手を出しかけやがった」
「痴漢でも…されたのかしら?」
「ヒロシは、身体を触ったけど、俺が直ぐに止めに入った。学校では、同じ年の女の子がするの?」
それを聞いた叔母は、「違うかしら?例えば同性愛者だったりとか…」
「あり得ない訳では無いけど…まさかね…」
叔母は少し溜め息を吐き「可愛い過ぎるのもイロイロと大変なのね…」
「その辺、我が家のお嬢様は、心配なくて良かったね」
「あれは、あれで困ったものよ…。女っ気が無くて、男勝りだし…。ハア…もう少し女の子らしさがあってくれても良いのにね…」
二人は、それ以上何も言わなかった。叔母は家に戻って夕食の支度の続きをする。ユウイチは、ルイの荷物を家の中へと運び始める。
浴室に入った二人、アキは直ぐに衣類を脱いだ。衣類の下からは細身ながらも体力のありそうな黄色の肌が現れた。胸の膨らみは少なく、まだ幼さが残る身体だった。アキが振り返ると、まだルイは、白いワンピースを脱いでいなかった。
「どうしたのルイちゃん、お風呂好きな、貴女が着替えしないなんて、おかしいぞ」
アキの言葉が聞こえ無いのか、ルイは、少しブルブルと震えていた。先程見せていた明るさが消えて、顔を俯かせて何か悩んでいる様な表情を見せていた。
「ほら、何時もの様に一緒に、お風呂に入ろうね」