昔の恋人-6
「何よ。」
何も言わないで突っ立っている俺に不満気な顔で言う。
「いや、悪い。ありがとな。」
俺がそう言うと、矢代は笑顔になり嬉しそうに入ってくる。
「分かっていればよろしい。作ってしんぜよう!」
さすが元カノ、勝手知ったる。
ちゃっかり靴を脱ぎ、どんどん入っていく。
俺も苦笑いになりながら矢代のあとに続く。
ベットで横になっていると、矢代から呼ばれる。
テーブルには美味しそうなうどんが準備されている。
「ほら、突っ立ってないで食べよう!」
矢代がお茶を持って来ながら俺に言う。
テーブルにつき、テレビをつけて食べ始める。
「いただきます」
美味い。
温かい。
身に染みる。
「うめぇ。胃が満たされるわ。」
「でしょー?私やっぱり天才かもー。うどん職人になろうかなぁ。」
矢代が笑いながら食べる。
「手打ちできんのかよ?」
俺も笑いながら食べる。
こういうのは本当に久々かもしれない。
あっという間にたいらげ、買ってきてもらったイチゴを頬張る。
一息着くと、俺は矢代から急かされベットに戻った。
カチャカチャと洗い物の音が聞こえる。
洗濯機の音もする。
溜まっていたから矢代が回してくれたのだろう。
お腹いっぱいのせいか、直ぐに眠くなった。
窓から西陽が入ってきていた。
目が覚めると、すぐにそこに目がいった。
携帯を見ると、17時を過ぎたとこだった。
熱を測る。
36.5℃。
トイレのため部屋を出ようとドアノブに手をかけた瞬間、ふと矢代にきてもらったことを思い出した。
あいつ、俺が寝てからどうしたんだ?
そう思い、リビングの方に向う。
部屋を出るといい香りがする。
うどんとはまた違う。
リビングをそっと覗くと、テーブルにノートパソコンと沢山の書類が置いてある。
今、由梨さんと共同でしている企画かな。
それと俺と打ち合わせる予定の分と、あと幾つがある。
しかし、当の本人がいない。
トイレにもいない。
玄関に行くと靴がない。
そういえば上着もカバンもない。
台所には鍋に美味しそうなおでんが入っている。
洗濯物は室内に入れてあるし、部屋も洗い物も綺麗に整えられている。
流石に眠気はさめたし、怠さもなくなったので、風呂に入ることにする。
書類やパソコンが置いてあるくらいだから、矢代もその内戻ってくるだろう。
着替えを持ち、風呂場に向かう。
取っ手をひねるとシャワーからお湯が出てくる。
頭からかぶる。
非常に気持ち良い。
その時思い出してしまった。