昔の恋人-4
タッパーに入った鮭と卵が入ったお粥。
リンゴ。
熱さまシート。
ポカリ。
そしてハチミツレモンのジュース。
思わず顔が綻ぶ。
ありがとうございます。
本当にこの一言に尽きる。
矢代は本当にわかっている。
そう、矢代とは2年間付き合っていた。
新規採用の研修の時に知り合い、1年後の研修の時に再会した。
隣の支店だったこともあり、色々共通の話題もあり、話しているうちに気があって付き合うことになった。
ただ、隣の支店と行っても隣の県。
少し遠距離で、そうそう会えるわけではなかった。
俺も2年目になると後輩もできたし、それなりの忙しさがあった。
つい寝坊して約束の時間に遅れたり、
電話するって言っておきながら、帰ってそのまま電話をせずに寝てしまったり。
矢代は文句を言いながらも、俺の体の心配や仕事の心配をしていた。
まだ付き合っていた頃、今日みたいに熱を出したことが何度かあった。
その時はわざわざこっちまできてくれて、お粥を作ってくれて、買い出しに行ってくれた。
元から料理は美味かったが、あの時のお粥がマジで美味くて、それがこの鮭と卵のやつ。
俺が小さい頃から風邪ひいたら飲んでたのがこのハチミツレモンだった。
矢代は "風邪のときはリンゴ" と言ってリンゴを出してくれた。
あいつはそれを覚えていてこうやって持ってきてくれたのだろう。
タッパーを温める。
その間にリンゴを1つ取り、頬張る。
リンゴも綺麗に剥いてあり、塩水につけてあったのか、変色もしてないし、ほんのり塩味がして美味い。
家でリンゴを食べるなんてそれこそ矢代が来ていた頃ぶりかもしれない。
矢代と別れてからは誰とも付き合っていない。
ピーピーとレンジが鳴る。
タッパーを取り出す。
お粥というか、雑炊だ。
蓋を開けると本当に美味しそうだ。
スプーンに取ると湯気がさらに出てくる。
一口。
もう一口とスプーンが進む。
体が温まる。
何故か懐かしくて、涙が出てきた。
粥も林檎も完食し、薬を飲んで水分補給をして、熱さまシートを貼る。
枕元にポカリを置いてベットに入る。
再び眠るのに時間はかからなかった。