昔の恋人-2
「たかちゃん大丈夫?」
振り返ると由梨さんがいた。
冴木由梨さん。
矢代と同じ企画課で、俺らより2つ上の先輩だ。
大学から知り合いで、その当時から由梨さんと呼んでいたため、公の場以外は由梨さんと呼んでしまう。
矢代とはタイプは違うが、由梨さんも話しやすいタイプだ。
「たかちゃん、顔赤いし、朝礼の時からだるそうだったし、熱あるんじゃない?今日また外回り?」
由梨さんが心配そうに尋ねてくる。
「いや、今日はもう事務処理と打ち合わせなんで。大丈夫っす!」
「だめ!ほら、一応熱計ろう?香苗ちゃんも心配してたよ?」
そう言って由梨さんは体温計を取ってきてくれた。
書類に目を通しながら言われるがまま熱をはかる。
ーピピッ
終わりを告げる電子音がして、体温計を取り出し、表示をみる。
自分の目を疑った。
もう一度確認しようと手元を見たがそこにもう体温計はなかった。
そして後ろから罵声が聞こえた。
「帰れ、この大馬鹿もの!」
体温計を返される。
「他の人にうつる!いますぐ病院行って帰って寝れ!」
矢代がもの凄い剣幕で課長の所に向かっている。
課長も少しびびってる。
液晶を見る。
…38.8℃。
由梨さんが苦笑いしながら体温計を取った。
「ほらね。帰りなさい。で、土日でしっかり治してまた来週元気になって出てきてよ。今から2人で打ち合わせして香苗ちゃんにうつしたら怒られちゃうよ?」
「確かに。一生言われますね。」
そう言うと、由梨さんが笑う。
矢代を見ると、課長とこっちに向かってくる。
「今日はもう帰って大丈夫だぞ。来週からまた頼む。もしインフルエンザだったらすぐ連絡しろ。気をつけろよ。」
「課長、本当にすみません。来週は必ず治して出てきます。」
そう言って頭を下げる。
課長は俺の肩を叩いてデスクに戻っていった。