昔の恋人-16
「矢代っ、待てって。おい。」
聞く耳持たずにどんどん先に進む。
「おい、香苗!」
ようやく立ち止まり、小さく呟く。
「名前で呼ぶな、この最低男。」
「俺好きだ、香苗が好きだ。はっきり言って昨日は嬉しいのと緊張で好きだって言えたか覚えてなかった。本当にごめん。軽い気持ちで抱いてねぇし、お前だから抱いたんだよ。頼む、また前みたいに付き合ってくれ。次は絶対お前のこと守るから。」
玄関の廊下で背を向けた矢代に言う。
矢代の手を取り、鍵を1つ渡す。
鍵を確認して、矢代が泣きながら言う。
「別れてからもずっと崇だけだったんだから。」
そのまま振り返り、俺の胸に飛び込んでくる。
そのまま廊下で座り込み、抱きしめる。
矢代からは俺と同じシャンプー、同じボディーソープの香りがする。
矢代…香苗はずっと俺を見ていてくれて、俺と同じ道を歩みたいと思ってくれていたのかもしれない。
思い込みだけど、ずっと待っててくれてたのかもしれない。
「なぁ、香苗。」
「…なに?」
「待っててくれてありがとな。」
香苗は顔を綻ばせ、今までで一番可愛い笑顔を見せてくれた。
俺もつられて笑顔になる。
「大好きだよ」
そう言っておでこにキスをした…