昔の恋人-15
「おい、矢代?おい。」
「んー。」
やる気のない返事をしながら寝返りをうってまたそのまま寝息を立てる。
あまりにも変わらない矢代に思わず笑みが零れてしまう。
「おい、矢代。…香苗。」
揺すりながら矢代と呼び、最後に耳元で名前を呼んで見る。
うっすら目を開ける矢代。
「…?」
がばっと起き上がる。
「な…!ちょっ…!」
思い出したのか、布団を手繰り寄せる。
「朝飯準備できたから。シャワー浴びて服きたらリビングにこいよ。」
さっき一緒に拾っておいた服を渡し、先にリビングに向う。
テレビを見ながら火加減を調整しながら待つ。
しばらくして、さっぱりした顔で矢代が入ってきた。
テーブルにはリンゴとドリンクは置いてある。
その隣にトーストと目玉焼きを並べ、2人で食べ始める。
テレビを見ながら、あーでもないこーでもないと言いながら、あっという間に食べてしまった。
片付けのため、キッチンに立つ矢代。
何となく切り出しにくくて、話が止まってしまう。
リビングに戻ってくると、矢代から口を開いた。
「ごめん。もう帰って自分の家のことしなきゃ。」
「そうか…」
矢代が俺を見る。
「熱はもう大丈夫そうだけど、今日一日は安静にしときなね。また明日会社でね。」
「おう、本当にサンキューな。」
「何かあったらすぐ連絡してね。これくらいしかできないけど。」
矢代の言葉に驚く。
「は、何でそんなに驚くの?」
「いや、また来てくれるのか?」
俺のこの一言に矢代の目が一瞬で冷たくなった。
「へぇ、笹原くんはそんな軽い気持ちで元カノで都合のいい女として利用して抱いたんだ。ふーん、彼女にしてくれた訳じゃないし、昨晩の好きだって言葉は嘘だったんだ。へぇ。」
矢代の言葉に止まる。
「え、俺好きだって言った…?」
そう言った瞬間、左頬に激痛が走った。
矢代が泣きそうな顔で荷物を手に取り玄関の方に歩き出す。