昔の恋人-11
「ここは俺が残ります。矢代をお願いします。」
俺が言うと椎名が顔を上げて言いかけたが、大輔さんが遮った。
「椎名、ごめんな。俺はお前の気持ちには応えれないんだ。矢代さんを怒らせたのは椎名だろ?フォローは俺がいくから。悪いな。あとちゃんと帰れよ。」
そう言うと大輔さんは伝票を取り、すまなそうに出て行った。
「というわけです。椎名さん、里見さんがどうして冴木さんが好きなのか、それがわからない限り、多分冴木さんの魅力は椎名さんにはわからないですよ。
何も知らないのに人を悪くいうのは人間としてダメです。」
「あんたなんかに桃香のことがわかるわけない。」
「わかりたくもありません。ただ、俺も、矢代も、里見さんも間違いなくあなたと冴木さんなら、人間として冴木さんが好きだということですよ。
里見さんはあなたと仕事の立場があるから今日も付き合っているんです。まだ、あなたは大輔さんの表面しか見えていない。」
「桃香はただ大輔さんが好きなの。でも大輔さんはずっと冴木さんって人しか見てないって聞いて。だから振り向かせようと思ったんだもん。」
…泣き出すし。
まぁ、目の前で置いていかれ、別の奴に説教されれば泣きたくもなるよな。
きっと今まで振られたこともなければ、気に入った男は手にして来たのだろう。
甘やかされていたのがわかる。
「とりあえず出ましょう。」
会計はさっき大輔さんが済ませて行ってくれた。
「多分見たら納得しますよ。」
そう言って携帯を取り、席を立つ。
ー30分後
「香苗ちゃん…と、大輔くんっ?!」
近くのファミレスに由梨さんがやってきた。
「どうしたの…?何の組み合わせ?たかちゃんいないの?」
おろおろしながら聞く由梨さんに、大輔さんが優しく言う。
「由梨、とりあえず落ち着いて座れ。目立ってるから。」
「あ、ごめん!」
そのやりとりに俺と矢代は笑ってしまう。
俺と椎名は3人のテーブルと離れた所に座っている。
由梨さんが大輔さんの隣に座ると、大輔さんが話し始めた。
「ちょっと俺と矢代ちゃんと崇とうちの会社の子で飲んでたんだけど…」
「はぁ?!たかちゃん熱あるんだよ?!大輔くん何してんの?」
「は?!崇、熱あったの?!」
由梨さんが大輔さんに怒ると、初耳の大輔さんは矢代に聞く。