昔の恋人-10
「俺も流石に職場の人だからやりにくいよ。」
「ですよね…」
「どうしたもんかなぁ。」
大輔さんが悩んでいる。
確かに昔から大輔さんはモテていた。
でも、だいたい大輔さんの由梨さんへの思いを見ると、大抵の女性は諦めていた。
「由梨さん呼びます?」
「「は?!」」
俺の提案に、大輔さんと矢代の声が被る。
「もう、こうなったら由梨さんしか見えてない情けない姿を見せた方がよくないですか?」
俺の言葉に矢代が笑う。
大輔さんは苦笑いで答えた。
「情けないって言うなよ!由梨は呼ばないよ。多分マジ切れされるから。」
…確かに。
椎名さんタイプは由梨さんが最も苦手とするタイプだ。
そんなトコに呼び出せば間違いなく怒られる。
由梨さんは怒ったら口を聞いてくれない。
しかも視線が本当に怖い。
「ごめんなさぁい。」
椎名さんが戻ってくると、大輔さんが席を立つ。
椎名さんは座ると、大輔さんがテーブルを離れたことを確認して、切り出した。
「ねえ、矢代さんと笹原くんってサエキって女のこと知ってんの?」
…さっきまでと全然態度と声が違うんですけど。
「俺の大学の先輩で、里見さんと同期ですけど。」
椎名が俺を見る。
「じゃあおばさんじゃん!」
「いや、まだ全然若いけど。」
「だって桃香まだ20歳だよ!28くらいでしょ?十分おばさんじゃん。」
ーバシッ!
椎名の顔が固まる。
思わず隣を見る。
矢代がテーブルを叩いていた。
「言わせておけば言いたい放題言いやがって、この小娘が!」
「や、矢代!」
思わず止めに入る。
ちょうど、大輔さんが戻ってきた。
「28でおばさん?!20歳の小娘は頭が足りんのか!仕事もできんような猫被り人間が里見さんに振り向いてもらえると思ってんの?!里見さんが好きなのはね、努力を惜しまず自分のチカラで道を切り開いてコツコツ努力するタイプで、あんたみたいなおんぶにだっこの甘ちゃんなんかじゃないっつーの!これ以上冴木先輩のこと馬鹿にしてみな!次はその化けの皮みんなの前ではいでやる!帰るっ!」
矢代はそう言って、財布からお金を出し店を出て行く。
椎名は何か言おうとしたが、視界に大輔さんが入るとむすっとした顔で黙りこんでしまった。
大輔さんは笑っている。