双星の魔導師と巫女-5
「離さないのなら……」
バチィッ
「うおっ!」
男が掴んでいる所から盛大に火花が飛び散った……しかし、男は驚きの声をあげただけで手は離さない。
「えっ」
「びびったぁ……お嬢ちゃん、ここは魔法大国ゼビアだぜ?魔力持ちじゃねえ奴でも護身用に護符を持ってんだよ」
日常的に魔法が飛び交うので巻き込まれないように魔力結界付の護符を持ち歩くのがゼビアの常識と、男はニヤリと笑い少女の服に手をかけた。
「っ嫌っ!!止めて下さいっ!!」
男が力をこめて服を引きちぎろうとした時……
「私の目の届く範囲で暴挙を犯す者は馬鹿だ、というのもゼビアの常識だよ」
不意に背後から声がかけられた。
「!!」
「縛」
ザッと振り向いた男達に次々と魔法陣が飛ぶ。
魔法陣は的確に男達を捉え、地面や建物の壁に体を縫い留めた。
「大丈夫かい?」
へなへなと座り込んだ少女の横に片膝をついたベルリアは、少女の顔を覗き込む。
怯えた鳶色の瞳は涙で少し潤んでいる。
とりあえず立たせようとベルリアが手を伸ばすと、少女はビクリと身を縮めた。
『あらあら、怖がっちゃってるわよぉ?』
リンがちゃちゃを入れた時、少女は再びビクリとしてベルリアの背後を伺う。
「『え』」
体内で喋るリンの声は他人には聞こえないはずなのに、少女は聞こえているかの様な反応をした。
『……ねぇ……アタシの声……聞こえてる?』
試しにリンが話かけてみると少女は恐る恐る頷く。
ベルリアとリンは目を丸くして驚いた。
これまでの長い人生の中で、内側にいる方の声が聞こえた人物は初めてだ。
『ねぇ、お嬢ちゃん。アタシはリン。この男は相方のベルリアよ。この学校の学長だから信用していいわ。だから、とりあえず医務室にいきましょう?』
リンの言葉に少女が首を傾げる。
「腕、痣になってるよ。他にも怪我してたら大変だしね」
ベルリアはそう言うと改めて手を差し出した。
今度はその手を取った少女はにっこり微笑む。
「わたくしはミヤ=F=タナーと申します。危ない所を助けて頂きまして、ありがとうございます」
非常に丁寧な言葉使いで挨拶をした少女……ミヤに、歳の割には落ち着いた子だなあ、と思いつつベルリアは微笑み返した。
医務室にミヤを案内したベルリアは治療を職員に任せて、ミヤを質問責めする。