双星の魔導師と巫女-16
「それだけファンに来といてなんでキャラに気づかなかったんだよ?」
もっともな疑問。
「ファンに来てたのは長くて2日間だったし、優秀な巫女長のミヤ様は例え相手が恋人でもファンの内情を他国の人間にもらしたりしないからねえ」
キアルリア姫の肖像画は見た事あったが、実物を見た事は無かったし、大体キャラとキアルリア姫が同一人物だなんて思いもしない。
「あら、1度会った事ありましてよ?」
ミヤに言われてベルリアは首を捻る。
「えっとですね……貴方がアースを引き取ったばかりの頃に連れて来た事がありましたでしょう?」
「ああ!あの子か!あれキャラだったんだ……」
と、ベルリアはキャラとアースを見て、いきなり吹き出した。
「んだよ?」
不機嫌に聞いてくるアースに、ベルリアは大笑いしながら教える。
「アースとキャラ……君らも会ってるよっ」
ベルリアの言葉に2人は顔を見合わせた。
お互い記憶に無い。
「アースがわたくしのムカデちゃんに轢かれた時ですわ」
その日、里から行儀習いの為に城に来ていたキャラ(当時5歳)は、勉強に飽きて部屋を抜け出し、ミヤのペットであるムカデちゃんを乗り回して遊んでいた。
そして、たまたま来ていたアース(当時10歳)を思いっきり轢いたのだ。
「あのクソガキお前か!?」
思いだしたアースはキャラに詰め寄る。
「全っ然、憶えてない」
詰め寄るアースからジリジリと逃げながらキャラは必死に首を横に振った。
「姫様ったら大泣きしてわたくしを呼びに来ましたのよ?『お兄ちゃんが死んじゃった〜』って」
「お兄ちゃん?!」
確かに5歳から見た10歳はお兄ちゃんだ。
「幸い大した事無かったけどね……暫くの間、アースは虫が苦手になってたよ」
特に多足系はダメでダンゴ虫を見ても寒気が走っていた。
「だから2度とファンには行かないって言ってねえ……なのにファンのお姫様捕まえちゃうんだから不思議なものだね」
キャラに詰め寄っていたアースは、笑っているベルリアを見て再びキャラに視線を戻す。
しかし、キャラはアースが視線を外した隙に逃げ出していた。